産業用PCなど組込み機器の世界的メーカーであるAdvantechは、IoT(Internet of Thihgs/モノのインターネット)戦略を加速する。パートナー企業との連携も含めて、顧客を支援していくための環境づくりを着実に進めている。Advantechの日本法人であるアドバンテックの社長で日本地区最高責任者を務めるマイク小池氏が、IoT市場に対する取り組みや重点分野を深耕していくための新体制など、今後の事業戦略について語った。
――日本市場における2015年の事業概況を教えてください。
マイク小池氏 組込みプラットフォーム部門の業績が堅調である。特に、メディカル分野やリテール分野に向けたビジネスが好調であった。地域別には関西地区においてビジネス開拓が順調に進み、システム事業が拡大した。こうしたこともあり日本法人の業績は大きな飛躍を遂げることができた。
――2015年はIoT関連で企業の買収など、特筆する出来事が多くありました。
小池氏 まず、会社全体の大きなトピックとしては、2015年11月に産業ネットワーク関連製品メーカーである米国B+Bスマートワークスを約1億米ドル(約120億円)で買収したことが挙げられる。インダストリアルIoTを実現するための中核製品を提供している企業で、米国や欧州市場においてその強みを発揮している。今回の買収によって、IoT関連事業でチャネルビジネスの拡大が期待される。
2つ目のトピックスは、産業用コンピュータ市場において、世界シェアをさらに伸ばしたことだ。調査会社IHSによれば、2013年の市場シェアは29.5%となった。前年(2012年)の27%に比べて、さらに2.5ポイント上昇したことになる。
もう1つトピックスを挙げるとすれば、当社の企業ブランドイメージが高まったことだ。台湾で行われた台湾ベストグローバルブランド評価において、Advantechは前年の10位から、2015年は7位となりその順位を高めた。
――IoT戦略に対する日本市場での取組みはいかがですか。
小池氏 これまで公表してきた事業計画を着実に実行している。その1つが「WISE(Wireless IoT Solutions Embedded)-PaaS(Platform as a Service) Alliance」の推進である。WISE-PaaS Allianceとは、パートナー企業と協力して、当社が提唱するIoT戦略を推進していくプログラムである。センサーモジュールやゲートウェイなどのIoT向けハードウェアと、収集したデータをクラウドサービスで利用できるようにするためのソフトウェアプラットフォーム「WISE-PaaS」を、包括的なプラットフォームとしてワンストップで提供するものだ。
WISE-PaaS Allianceに関して、三井物産エレクトロニクス(以下、MBEL)と2015年10月に契約締結した。当社はMBELに対して、サーバ/エージェントソフトウェアとSDK、サンプルコードやソースコード、「Microsoft Azure」の使用権、POCや検証用のIoT向けハードウェアプラットフォームなどを提供する。フォーカスするターゲットは、各種製造業の生産現場や公共/社会インフラ、環境/エネルギーなど、センシング技術を活用できる分野である。MBELと共同で、これらの用途に対して営業活動を展開する。MBEL以外にも、異なるアプリケーションで数社とパートナー契約に向けて準備を進めている。
インダストリアルIoT分野では、ネットワーク・コーポレーション(NWC)との提携を2015年6月に発表した。NWCとの協業は、特定産業向けプラットフォームを提供する「WebAccess+Alliance」を基本としたもので、WISE-Cloud Allianceとは異なる。NWCとの協業により、ビルオートメーションを始め、インダストリ4.0に対応するスマートファクトリやスマート農業などの用途に対して、最適なソリューションを提案していく。
――事業体制も、これまでの製品ベースからソリューションベースへと変更されました。
小池氏 「セクタリード2.0」と呼ぶ、より進化したセクタリード型事業体制を2015年6月に整えた。ビジネスグループとして、「エンベデッドデザインイン」「インダストリアルIoT」および「スマートシティーソリューション」と、3つのセクタに分けた。
エンベデッドデザインインは、組み込み用ボックスコンピュータや産業用マザーボード、ワイヤレスIoTモジュールなどの「エンベデッドコアコンピューティング」、ゲーム機器や医療機器などの「アプライドコンピューティング」、そしてブレードコンピュータやスイッチなどを担当する「ネットワーク&コミュニケーション」の3グループからなる。
インダストリアルIoTは、インダストリアルオートメーション、インテリジェントシステム、そしてインダストリアルコネクティビティのグループで構成される。スマートシティーソリューションは、メディカルやリテール、ロジスティックといった分野に特化した製品やソリューションを提供していくグループとなる。
――体制変更にはどのような狙いがありますか。
小池氏 マーケットセグメントがより明確となった。また、エンベデッドデザインインの事業分野をさらに強化した。エンベデッドデザインインは、当社が最も強みを持つ分野ではあるが、営業チームの統合などを行うことにより、それをもう一段強化した。インダストリアルIoTは、システムビジネスを「IoT」というマーケットセグメントで捉えることとした。
日本市場では、関西地区の事業が大きく伸長していることもあり、人的リソースを増強するなど体制を強化した。大阪支店の人員は2年前に4人体制であったが、昨年(2015年)は15人に増員し、今年(2016年)は20人以上の体制とする予定だ。インダストリアルオートメーション部門は、ヘッドクォータをオンラインセールス部隊も含めて東京から大阪へ移し、2015年11月より業務を開始した。
――2016年の戦略や業績見通しはいかがですか。
小池氏 会社のビジョンとして、「インテリジェントプラネットの実現」を2010年に掲げた。これを具現化していくために、組込みハードウェアプラットフォームであるセンサーモジュールやデータゲートウェイ、組込みシステムなどのIoTデバイス製品群を拡充した。
2015年からは、次の成長に向けてIoTソリューションレディプラットフォーム(SRP)や、上位クラウドと容易に接続/連携するためのIoT PaaSなどを提案してきた。
2016年以降は、パートナー企業と連携を強めながら、よりバーティカルにセグメントされた市場/分野に対して、多くの実証実験を行いつつIoTクラウドサービスを提案していくことになる。WISE-PaaS Allianceについては、2016年はさらに倍以上に契約パートナーを増やしていきたい。
――アドバンテックはIoTサービスの中でどのような領域をビジネス対象としていますか。
小池氏 IoTとは、例えば血圧や脈拍数、血液、温湿度、さらには画像など、現場のさまざまなデータを各種センサーや入力デバイスで取り込み、収集したデータはゲートウェイ/インターネットを介してクラウドサーバに送信される。そして関連する大量のデータを解析して最適なサービスを提供すること、と定義している。
そして、データのアクイジション、トランスポーテーション、インテグレーションそしてデータアナリシスという4つの機能がIoTサービスを行うための基本となる。一般的にはデータのインテグレーションとアナリシスがIoTサービスと認識されていることが多いようだが、当社はデータアクイジションとトランスポーテーションの機能を実現するためのプラットフォームを提供している。これらのプラットフォームがないとIoTサービスは成り立たない。しかも、プラットフォームで用いるハードウェアについて当社は、業界シェアがナンバーワンという強みを持っている。
これからも、IoTへ誘うことが可能なプラットフォームの提供に向けて、用途に応じたハードウェアを開発していくことが当社の使命だと考えている。当社のIoTプラットフォームがクラウドと連携するため、当社のソフトウェア技術者は150以上の「RESTful API」を開発し提供している。
調査会社によれば、2025年にIoT関連市場は全体で1300兆円の潜在需要があると予測されている。このうち、当社のビジネス対象となる範囲に限定すれば合計でほぼ1000兆円市場と推定される。内訳は、スマートファクトリ関連で約555兆円、スマートシティー&ヘルスケアとスマートメディカル&リテール関連で約445兆円と予測されている。
――日本におけるIoT市場の見通しと具体的な取り組みは。
小池氏 調査会社IDCによると、日本におけるIoT対応製品の市場規模は2014年に5億5700万台となった。2019年には9億5600万台に拡大すると見込まれている。こうした市場予測に基づいて、当社はセクタリード2.0体制を整備しつつ、さまざまなバーティカルマーケットに対して、IoTへ誘うためのデザインサービスを提供していく。
そのための重要なソリューションが前述した「WISE-PaaS」と「WebAccess+」であり、これらをより多くのソリューション/サービス・プロバイダーならびにエンドユーザー企業に活用頂くためのアライアンスパートナープログラムの推進をさらに加速させていく。
日本の販売チャネルも再編した。当社の経営ビジョンを共有し、必要なリソースの投入をコミットメントしてもらえたパートナーをセクタごとに2〜3社に絞り込んだ。2016年はこれらパートナー企業との連携をさらに強化しつつ、IoT戦略を次のレベルに引き上げていくことになる。
――IoT戦略を加速していくための投資も行われています。
小池氏 台湾・林口キャンパスの1期工事が2014年に終わり、組込みシステムなどの製造を行っている。現在は2期工事を行っており2016年には全て完成する予定だ。拡張工事が完了すれば、研究開発と製造部門が統合される。製造能力も中国・蘇州にある工場とほぼ同等規模を確保できることになる。林口キャンパスの新工場は、IoTインテリジェントキャンパスとなっており、インダストリ4.0に対応する最新の設備を導入している。
2015年1月には馬英九総裁や台湾経済部関係者らが林口キャンパスを視察し、スマートシティー向けIoTソリューションを体験した。この際、当社から台湾政府に対して、「大規模システムインテグレーターを育成」「産業界をリードすることを目指したプロジェクトの推進」「IoT/スマートシティー分野における産学協同のための大規模プロジェクトの推進」の3点を助言した。さらに、詳細はこれから決めることになるが、日本市場においても2016年から産学協同プロジェクトを始める計画である。
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提供:アドバンテック株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年2月11日