IDT(Integrated Device Technology)は、2年前に「データセンター」「通信インフラ」「民生機器」の3市場に注力する経営方針を掲げて以来、急成長を実現してきた。売り上げ規模は過去2年間で、1.5倍以上に拡大した。2015年末には独車載半導体メーカーを買収し、自動車市場への本格参入に着手。2016年以降も、急成長の持続をもくろむIDTの日本法人社長(シニアディレクター兼日本担当カントリーマネジャー)の迫間幸介氏に、今後の事業戦略などについて聞いた。
――2016年3月期上期の全社売上高は、前年比25%増と好調でした。
迫間幸介氏 2014年2月に社長兼最高経営責任者(CEO)にGregory Watersが就任するなど経営陣が刷新され、“データセンター”“通信インフラ”“民生機器”の3分野に注力し、アナログ/ミックスドシグナルICを展開していくという明確で分かりやすい新しい経営方針が功を奏している。ここ2年間で、IDTの年間売り上げ規模は、5億米ドル程度から、8億米ドル規模に急拡大したことからも、新たな経営方針が成果を上げていることが分かる。
――2015年の日本でのビジネスを振り返ってください。
迫間氏 日本国内の売り上げ規模は、全社業績ほど増えていない。新たな経営方針の下、3分野への注力を強めた一方で、事業を縮小した分野もあり、売り上げ面では相殺された形だ。
私自身、IDTに加わった2014年8月からこれまでの約1年半、“データセンター”“通信インフラ”“民生機器”の3分野に注力する「新しいIDT」を顧客に認知、理解されるための努力を続けてきた。新経営方針にふさわしい組織体制や販売代理店網の整備も行った結果、日本国内での新しいIDTへの理解は、かなり浸透した。そういった意味で、大きな成果を得た2015年だった。
――成長を引っ張っている製品を教えてください。
迫間氏 IDTが注力している製品は、クロック/タイミングIC、メモリインタフェースなどインターコネクト用IC、パワーマネジメントIC、RFICだ。ここ2年間を振り返れば、まず、データセンターで急速に普及してきているDDR4のインタフェースICが好調に伸びている。DDR4対応をいち早く実現し、その優位性が発揮できている。
メモリ関係では、SSD向けのパワーマネジメントICも好調だ。負荷に応じて、5A単位でパワー段を増やしたり、減らしたりできる「システムパワーソリューション」がSSD市場を中心に受け入れられている。このソリューションは、パワー段を構成する「DPU」と、最大で20のDPUを制御できる「System PMIC」で構成するのだが、DPUとSystem PMICは30cm程度の配線長で、別基板でも接続できる。1つのSystem PMICで、複数のSSDモジュールの電源管理が行え、SSDモジュール側にサイズの大きいPMICを置かず、よりメモリ密度を高められる点で評価されている。このシステムパワーソリューションは、SSDのみならず、FPGAなどの電源としても、基板設計を共通化できるなどのメリットを提供でき、幅広い用途で需要が増えつつある。
DDR4インタフェースICについては、残念ながら需要の中心は韓国や米国だが、SSD向けPMICについては、日本国内が先行して売り上げを伸ばしてきた製品で、2016年以降も日本国内での売り上げを引っ張る製品として期待している。
――パワー関連では、ワイヤレス給電用デバイスも好調のようですね。
迫間氏 2015年の全社的な業績を大きくけん引したのがワイヤレス給電用ICだろう。サムスン電子やLG電子といった大手メーカーのハイエンドスマートフォン端末に採用、搭載され、ワイヤレス給電自体の普及もスマホ分野ではかなり進んだ1年だった。
2年前の参入ということで後発だったわけだが、今日では、世界トップシェアにまで成長することができた。
――ワイヤレス給電デバイスでシェアを獲得できた要因は?
迫間氏 給電/受電双方のデバイスはもとより、「Qi」「Rezence」など各無線給電規格への対応、さらには独自の急速給電技術など、幅広いオプションを提供できたことが、採用拡大につながったと思う。
――日本国内でのワイヤレス給電デバイスの展開状況はいかがですか。
迫間氏 日本国内でも、国内スマホメーカーの北米向けモデルなどで採用実績を積んでおり、日本国内向けモデルでも、ワイヤレス給電対応がまもなく進むのではないかと期待している。
それ以上に期待をしているのが、スマホ以外のマスマーケットでのワイヤレス給電の普及拡大だ。
ワイヤレス給電は、Bluetoothと同じように普及していくと考えている。Bluetoothは、最初、携帯電話機とヘッドセットの接続という特定用途から普及し、次第にさまざまな場所で広く使われるようになった。ワイヤレス給電も、スマホという特定分野での普及が進み、今後は、スマホ以外にも広く使われるフェーズへと移っていく。日本でも、2016年は、スマホ以外のマスマーケットに向けた提案を加速させる。
――ワイヤレス給電のマスマーケット向け提案で取り組まれていることはありますか。
迫間氏 ウェアラブル機器やヘルスケア機器、おもちゃ、さらには家具などへワイヤレス給電機能を提案するには、IC単体で提案しても顧客側では、どうすることもできない。そこで、すぐにワイヤレス給電を試すことのできる開発キットをそろえている。開発キットでワイヤレス給電の良さを体感してもらっている。さらに、実際に機器に組み込む場合には、パートナーのモジュールメーカーなどを通じてサポートできる体制も整えている。
スウェーデンの家具メーカーIKEA(イケア)が、IDTの製品を使ったワイヤレス給電機能付き家具を、欧米で販売しているといった先行事例もある。日本でも、玩具メーカーやホテル、飲食店チェーンなどにもアプローチを開始し、一定の手応えを得ている状況。マスマーケットの本格的な立ち上がりは2017年以降になると思うが、そこに向け提案を一層強化していく方針だ。
――2015年12月に、ドイツの半導体メーカーZMDI(Zentrum Mikroelektronik Dresden)を買収されました。
迫間氏 ZMDIは長く車載向けセンサーアナログフロントエンドICやハイパワーデバイスを手掛けてきた企業だ。日本での知名度は高くないが、欧州車載市場などでは多くの実績がある。
IDTはこれまで、自動車に対しては、インフォテインメント領域に限ってクロックICやワイヤレス給電ICを展開してきただけだったが、ZMDIの買収を契機に、ボディー/シャシー/パワートレイン領域という、本格的な車載半導体ビジネスに参入することになった。
今後、IDTは、“データセンター”“通信インフラ”“民生機器”に加え“自動車”という4分野に注力する。
――国内自動車市場では、どのような事業を展開されますか。
迫間氏 買収が完了したばかりで、今まさに、事業戦略を策定している段階にある。2016年3月までに、さまざまな精査を行い、戦略を決めていく。
とはいえ、日本には大きな自動車市場があり、車載向け事業体制を強化していく方向であることは間違いない。
――2016年の抱負をお聞かせください。
迫間氏 2014年、2015年と、新しいIDTとして、種まきを行い、着実に芽が出てきた状況といえる。2016年は、水をやり、しっかりと育成しつつ、刈り取りも始めていくというイメージだ。
加えて、自動車向けという新しい種も加わったので、新しい種まきも同時に進めていく1年にしたい。
――2016年、特に拡販を強化される製品はありますか。
迫間氏 引き続き、ワイヤレス給電用ICや、SSDなどデータセンター向け電源製品の拡販を継続する。データセンター向け電源では、ZMDIがデジタル電源技術を有しており、システムパワーソリューションとともに、提案を進めていきたい。
通信インフラ向けのRF製品も、ここ2年、集中的な製品開発に取り組み、アンテナの後段からデジタルフロントエンドの前段までをほぼ網羅するシリコンベースの製品ラインアップが整った。デバイス単体だけでなく、ソリューション提案も行える体制になったことで、LTE-Advancedや、開発が活発になりつつある5G(第5世代移動通信)関連需要を取り込みたい。
主力のクロックICも、市場規模こそ大きな成長は見込めないが、PCI Express向け製品など先端製品の開発、提供を続け、高いシェアを引き続き、維持していく。
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提供:日本アイ・ディー・ティー合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年2月11日