2019年から本格的に自動車市場に参入したVicor(バイコー)。48V電源システムでは、サーバ/データセンター分野で既に多くの実績を持つ同社は、「自動車業界に新しい設計概念をもたらす」と意気込む。Vicorでオートモーティブビジネスのバイスプレジデントを務めるPatrick Wadden氏に、その詳細と今後のキープロダクトを聞いた。
2019年から本格的に車載市場に参入しているVicor。電源コンポーネント製品を専門に手掛ける同社は、自動車メーカーと連携して新しい電圧変換コンポーネントを開発するなど、自動車向け製品の開発と拡充を強力に進めている。
もともと、従来の集中型ではなく分散型の48V-12V配電アーキテクチャという独自の技術を持つVicorにとって、48V電源システムへの移行が進む自動車は相性のいい分野だ。現在注力しているのは、自動車の駆動に関わるパワートレイン/シャシーシステムと、自動運転/AI(人工知能)の2つである。Vicorでオートモーティブビジネスのグローバルバイスプレジデントを務めるPatrick Wadden氏は、「サーバやデータセンターで多くの実績を持つVicorにとって、特に自動運転/AIへの注力は自然な流れだ」と説明する。
自動車の電動化における課題は、コストの低減はもちろんのこと、12V駆動から48V駆動への移行、充電をいかに高速にするか、電力要求に対する変化にどう対応するか、高電圧にどう対応するかなど多岐にわたる。さらに、トラックやハイエンドスポーツカー、ハイブリッド車、電気自動車といった車種や、自動車メーカーによっても大きく違ってくる。
Wadden氏は、Vicorの製品はこうした幅広い課題に応えられると強調する。
自動車に搭載されている電力供給システムのアーキテクチャは、大きく以下の4つに分けられる。
いずれのアーキテクチャにおいても、Vicorの製品が強みを発揮できるとWadden氏は述べる。
Wadden氏は、Vicorが特に貢献できる部分として充電と電圧変換、電力供給を挙げた。充電では、800V-400Vの双方向電圧変換を最大99%という非常に高い効率で行える。電圧変換は800V/400Vを48Vに降圧する部分、電力供給はそこからさらに周辺システムの負荷電圧に降圧する部分で、これらは最終的に自動車の重量や性能に直接影響を与えるところでもある。Vicorの高効率、高電力密度の電力変換モジュールによって、システムの小型化や軽量化、電力損失の低減を実現することが可能だ。
Vicorの自動車向け製品における最大の特長は、拡張性と柔軟性を実現していることだ。
製品のラインアップ自体はシンプルで、高電圧DC-DCコンバーターモジュール(HV DCM)、低電圧DC-DCコンバーターモジュール(LV DCM)、絶縁型電圧変換比固定DC-DCコンバーター(BCM)、非絶縁型電圧変換比固定DC-DCコンバーター(NBM)の4種類だ。これらを、必要な電力に応じて並列に接続できる。「必要な機能を組み合わせて作るブロックのようなイメージだ。4種類の製品で、あらゆる電力レベルに合わせて約300通りのソリューションを構築できる」(Wadden氏)
Wadden氏によれば、自動車業界にとって、このようにコンポーネントを組み合わせて任意の電力システムに対応する“モジュールアプローチ”は、これまでとは全く異なるという。Wadden氏は「従来、車載システムの設計が変わる場合、設計エンジニアは新たに設計し直して、部品も選び直す必要があった。Vicorの製品を使えば、コンポーネントの組み合わせを変えるだけで、異なる車種に向けた異なるシステムを容易に構築できるようになる」と述べる。
「モジュールを組み合わせるという方法は、自動車メーカーの開発部門にとって、非常に大きな利点になるだろう。実際に、当社は現在、ある米国の自動車メーカーと連携して50kW対応の充電回路を開発中だが、標準化されたVicorのモジュールを自由に組み合わせることで、多くの異なる仕様に対応できている」(Wadden氏)
VicorのDC-DCコンバーターモジュールは変換効率も極めて高い。例えば、どの充電ステーションにも対応できるようにするために利用できる800V-400V双方向電圧変換DC-DCコンバーターモジュールでは、最大99%の変換効率を実現している。その他のDCMでも、「最大98〜99%を実現している」とWadden氏は述べる。「競合他社の類似製品の変換効率は93〜94%が多い。ほんの数パーセントの差に思えるかもしれないが、高電力システムでは、この差によって電力損失が大きく変わってくる」(同氏)
「当社は、DC-DCコンバーターモジュールの設計、製造をパッケージまで含めて全て自社で行っている。1社で全てを完全にコントロールして設計、製造することで高効率、高電力密度のDC-DCコンバーターモジュールを実現できる」(Wadden氏)
Wadden氏は、2020〜2021年にかけて、自動車向けで中心となるVicorの製品として「BCM6135シリーズ」や「NBM2317シリーズ」を挙げた。
BCM6135シリーズは、2020年5月末に欧州の自動車メーカーにサンプル出荷を始めたばかりの製品だ。800V/400Vから48Vへ降圧するDC-DCコンバーターで、出力電力は2.5kW。パッケージは61×35×7mmと非常に小型だ。効率は98%を実現している。Wadden氏によれば、同自動車メーカーは、BCM6135を並列に接続し、数キロワットの電力を出力しているという。「BCM6135を並列接続することで48Vを生成できるので、48Vバッテリーが完全に不要となった」(Wadden氏)
NBM2317シリーズは、既存の12V/48V非絶縁型双方向DC-DCコンバーターモジュールだが、新たに自動車向けバージョンを発表した。出力は1kW(ピーク時)で、外径寸法は23×17×5mm。高い電力密度を実現している。現在、車載規格の認証取得中で、2021年初頭には出荷できる見込みだ。さらに、2kW版も開発を進めている。
NBM2317は、先に48V化が進んでいるデータセンターのサーバで既に実績のあるシリーズだ。車載用に展開すべく仕様や規格に変更点はあるが、「データセンターの48V化でノウハウを蓄積してきたVicorが、自動車市場に向かうのはごく自然な成り行きだった」とするWadden氏の言葉を裏付ける、特徴的な製品だといえるだろう。
なお、Vicorの製品には、1個1個にシリアルナンバーが刻印されている。このナンバーをVicorのWebサイトで調べれば、モジュールのテスト項目や製造情報などを参照できるので、トレーサビリティが確保されている。
Vicorのパワーコンポーネントは全て、同社が米国マサチューセッツ州アンドーバーに所有する工場で製造されている。同工場は、品質マネジメントシステムに関する国際標準規格であるISO 9001に準拠している他、自動車の品質マネジメントシステムの規格IATF 16949の認証審査中だ。こちらは2021年第1四半期にも審査が完了するという。車載部品の品質規格AEC-Q100の試験も工場内で行える。
Goldman Sachsの市場調査部門であるGlobal Investment Researchの予測によると、自動車市場全体に占める電気自動車(ハイブリッド/プラグインハイブリッドを含む)の割合は、2020年の7%(予測)から今後10年間で35%に増加するという。Vicorにとって非常に大きなビジネスチャンスになり得る。
自動車市場への参入としては後発でも、「われわれは、48V電源システム向けのビジネスに、データセンターや航空宇宙/防衛の分野で10年以上携わってきた」とWadden氏は強調する。わずか4種類のパワーコンポーネントを組み合わせ、あらゆる電力レベルに対応するというソリューションは、シンプルで分かりやすい。Wadden氏は、「これまでの自動車業界にはない新しいもので、顧客から非常に良い反応を得ている」と自信をのぞかせた。
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提供:Vicor株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年9月17日