電源IC専業メーカーであるトレックス・セミコンダクターは、小型、低消費電力/高効率、低ノイズを追求した製品開発を一層、加速させる。特に売り上げが急拡大するトレックス独自のコイル一体型DC/DCコンバータ「“micro DC/DC”」のラインアップ拡充を急ぎ、車載、産機、そして5G/IoT市場への浸透を図る方針。同社取締役常務執行役員で開発本部本部長を務める木村岳史氏に技術/製品開発方針について聞く。
――新型コロナウイルス感染拡大の影響について教えてください。
木村岳史氏 一時、生産委託先の1つである中国の工場が閉鎖し、影響が生じたが、すぐに正常に戻り、生産面、供給面については影響ない。製品開発面についても、原則、在宅勤務という体制をとっているが、開発計画などに一切、遅れは出ていない。
あえて言えば、一部顧客と、セキュリティの観点などの理由によりリモートで本格的な商談、打ち合わせができなくなっている点で苦労している。ただ、徐々に商談も再開できはじめているし、顧客側の設計自体が止まっているわけではないので、これ以上、問題が深刻化することはないと考えている。
――需要についてはいかがですか。
木村氏 短期的には、販売数が世界的に落ち込んでいる自動車向けについては厳しい。逆に、WebカメラなどPC関連向け需要やヘルスモニタリングなどの医療機器向け需要が急拡大している。
中長期的にも、今回のコロナ禍を切っ掛けに、デジタルトランスフォーメーション(DX)への流れは加速するだろう。車載機器市場、産業機器市場とともに注力市場に据えているIoT/5G市場の成長がより速まる見通しであり、ビジネスチャンスがあるとみている。
――従来と事業戦略、製品戦略は大きく変わらないということですね。
木村氏 車載機器市場、産業機器市場、IoT/5G市場という注力市場に対し、小型、低消費電力を特長にした電源ICを展開していくという方針に変わりはない。
その中で、製品展開としては需要が伸び続けているDC/DCコンバータ領域で競争力ある製品を一層、強化していくことが重要だと考えている。
――DC/DCコンバータ製品の展開強化についてもう少し詳しくお聞かせください。
木村氏 DC/DCコンバータ製品の強化は、トレックス独自のコイル一体型DC/DCコンバータ製品「“micro DC/DC”コンバータ」を軸にして進めていく。
“micro DC/DC”コンバータは、コイルとDC/DCコンバータICを一体化し、電源回路の小型化に貢献するだけでなく、EMI(放射ノイズ)を抑制できるなどの特長を持つ。“micro DC/DC”コンバータの売り上げ規模は2017年度以降、毎年20〜30%増を続けるなど、バッテリー駆動の民生機器から産業機器、医療機器、車載機器などさまざまな用途での採用を拡大させてきた。
この“micro DC/DC”コンバータの品ぞろえをさらに広げることで、さらなる売り上げ成長を実現していきたい。
例えば、5G関連で需要が増えている次世代高速光通信コネクタモジュールに向けた“micro DC/DC”コンバータを拡充させたい。100G、400Gと高速化する光通信のコネクタモジュールは、わずかなサイズにもかかわらず、3〜4系統の電源が必要で、電源回路の小型化が求められている。加えてノイズを抑えることも必須であり、小型/低ノイズの“micro DC/DC”コンバータの特長を生かすことができる用途であり、多くの光通信ケーブルコネクタメーカーに採用され実績を残してきた。この次世代高速光通信コネクタでは、負電圧電源が必要で、そうした負電圧電源に対応する「XCL303/XCL304」シリーズをラインアップした。今後も、光通信コネクタモジュールに必要な全ての電源系統をカバーする製品群を構築していく。
――産業機器や車載機器などに向けた“micro DC/DC”コンバータの今後の開発方針をお聞かせください。
木村氏 5V系電源までに対応する低耐圧品のラインアップはある程度、充実してきた段階で、現在は12〜36V系電源に対応する中耐圧品のラインアップ強化を急いでいる最中だ。
高耐圧、大電流化を進めるとどうしても、コイルが大型化するとともに、コイルの発熱が問題になるが、クールポストと呼ぶ独自の放熱用端子を備えたパッケージを開発し、“micro DC/DC”コンバータの中耐圧対応が可能になった。
例えば、2020年3月に発売した36V入力、出力600mA対応の降圧型“micro DC/DC”コンバータ「XCL230/XCL231シリーズ」も、クールポスト技術により製品化が可能になった製品だ。通常36V入力対応のDC/DCコンバータは、8ピンパッケージを採用し、コイルを含めると、結構なサイズになってしまうが、XCL230/XCL231シリーズはコイル一体型にもかかわらず、パッケージサイズは3.0×3.0×1.7mmと小さく、電源回路を大幅に小型化できる。
36V入力、出力600mA対応という汎用的なスペックでもあり、標準的なバイポーラリニアレギュレータ「78シリーズ」から置き換える顧客も多い。XCL230/XCL231シリーズと78シリーズでは単品価格は大幅にXCL230/XCL231シリーズが高くなるが、電源サイズを大幅に小型化でき、熱設計も簡略化できるという点が評価されているためだ。
今後も、クールポスト技術を生かした中高耐圧品のラインアップを強化するとともに、より耐圧を高めることが可能な新構造の“micro DC/DC”コンバータの開発も行っていく。
――“micro DC/DC”コンバータの車載機器向けの展開はいかがですか。
木村氏 車載機器市場では、車載特化型の“micro DC/DC”コンバータ「XDLシリーズ」をリリースした。車載品質を満たすと同時に、ハンダ接合部の自動外観検査対応のウェッタブル・フランク構造のパッケージを用いた“micro DC/DC”コンバータであり、車載カメラモジュールなど各種ECU用途での評価、採用が進んでいる。
――“micro DC/DC”などDC/DCコンバータの開発加速に向けて開発リソースの強化も必要ですね。
木村氏 開発リソースを一層、レギュレータからDC/DCコンバータへとシフトさせていると同時に、昨年、出資したインドのファブレス電源ICメーカー・Cirel Systems社のリソース活用を進めていく。Cirel社と当社設計技術者との間で週1回程度のWebミーティングを実施しながら開発を進めている。2021年には、Cirel社で開発したDC/DCコンバータを製品化できるだろう。
またCirel社は電源のデジタル制御技術などを得意にしており、そうしたデジタル制御技術を取り入れた新たな製品作りも行っていく方針だ。
――“micro DC/DC”コンバータ以外の製品開発方針をお聞かせください。
木村氏 “micro DC/DC”も含めてトレックスは、低消費電力/小型を追求していく。バイポーラ時代はミリアンペア単位だった電源ICの消費電流は、CMOSプロセスの採用でマイクロペア単位になり、現在では、いよいよナノアンペア単位の時代に入りつつある。そうしたナノアンペア単位の時代を、けん引していきたいと考えている。
――ナノアンペアレベルの消費電流を実現した製品としてはどのようなものがありますか。
木村氏 ウェアラブル機器などに搭載される低電圧駆動型マイコンなどに向けた150mA降圧DC/DCコンバータ「XC9276」(2020年1月発売)では、消費電流200nAを実現した。1.72×1.07×0.33mmのWLPー6ー03パッケージ品もあり、競争力のある超低消費電力/超小型DC/DCコンバータに仕上がっている。
また、低消費電力を特長にしたユニークな製品としては、消費電流を44nAにまで抑えた高精度電圧検出器「XC6135シリーズ」や、リーク電流がわずか10nAのプッシュボタンロードスイッチ「XC6192シリーズ」などもある。今後も、こうしたナノアンペアレベルで圧倒的な低消費電力性能を持つ製品を開発していく。
――2020年6月には、次世代パワーデバイス材料の1つとして期待されるβ型酸化ガリウムのウエハー、デバイスを手掛けるノベルクリスタルテクノロジーと資本提携を結ばれました。
木村氏 パワーディスクリートデバイス用材料としてβ型酸化ガリウムは将来、有望であり、将来的には、トレックスの電源ICとノベルクリスタルテクノロジーのβ型酸化ガリウムパワーデバイスを組み合わせたソリューションを車載市場などに提供したいと考えている。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年9月17日