フィジカルAIの開発競争が激化する中、日本企業の強みはどこにあるのか。Fairy Devices 代表取締役 CEO 兼 CTOの藤野真人氏は「CEATEC 2026」の講演で、日本の産業現場で取得できる作業動画の価値を強調した。熟練作業者の一人称視点の動画をAIの学習データとして活用することで、日本企業がフィジカルAIの開発競争で優位性を発揮できる可能性があるという。
「日本は、もしかすると世界最高のAIデータ作成環境になっているのではないか」。Fairy Devicesの代表取締役 CEO 兼最高技術責任者(CTO)である藤野真人氏は、「CEATEC 2026」(2026年10月13〜16日、幕張メッセ)の講演「フィジカルAIを現場に根付かせるには ― データと共創から考える社会実装 ―」でこう語った。
現実世界を認識/判断し、ロボットなどを通じて物理的な動作を行う「フィジカルAI」の開発が世界的に加速している。米国を中心にヒューマノイドロボットの開発が進む一方、AIに実際の作業を学習させるためのデータの重要性も高まっている。
藤野氏が着目するのは、日本企業が持つ現場のノウハウだ。日本の製造業や保守サービスなどの現場には、熟練作業者によって培われてきた高度な技術がある。こうした作業の様子を記録した動画が、フィジカルAIの重要な学習データになるとみている。
Fairy Devices 代表取締役 CEO 兼 CTO 藤野真人氏。首元には同社のウェアラブルデバイス「THINKLET」を装着している。製品は本来白色だが自身の好みに合わせて黒く塗装して使用しているという[クリックで拡大]Fairy Devicesは、カメラやマイクを搭載した首掛け型ウェアラブルデバイス「THINKLET」を開発、提供している。作業者が装着するだけで一人称視点の映像を取得でき、遠隔地の熟練者が映像を見ながら現場の作業者を支援する用途などで利用されている。藤野氏によると、累計で数百社が利用しているという。
同社が現在力を入れているのが、こうした遠隔支援の過程で取得した動画をAIの学習データとして活用する取り組みだ。
藤野氏は「生成AIはインターネット上の情報を学習し尽くしたともいわれているが、『エアコン修理のためにパネルを開ける』『発電機を止めて内部で修理する』といった動画はインターネット上にはない」と指摘する。「こうした動画は非常に価値が高い。それを持っているのが(現場で作業をする)各社だ」(藤野氏)
具体的な取り組みの1つが、ダイキン工業との協業だ。両社は、空調機器の点検や修理を行うエンジニアの作業をAIで支援する技術を開発している。THINKLETで撮影した数百時間規模の作業動画を活用し、既存のAI基盤モデルをファインチューニングすることで、空調機器の点検/修理に関する専門的な作業を認識するAIエージェントを開発した。
両社が開発したAIエージェントは、作業映像から点検/修理手順の抜け漏れを自動的に確認するものだ。両社の発表によると、研修施設での実験では91%、実際の現場作業での検証では76%の検知精度を達成したという。
藤野氏は「映像の内容を理解する視覚言語モデル(VLM)の性能向上によって、一般的な作業であれば専用の追加学習をしなくても、ある程度認識できるようになっている」と説明する。一方、専門性が高い作業については、現場固有の動画データを用いたファインチューニングが有効だという。
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