あらゆるモノをネットワークで接続し、それらをソフトウェアで制御する。このような“プログラム可能な世界”への移行は、計測/制御機器の分野でも起こっているという。ナショナルインスツルメンツの“Software-Designed(ソフトウェア設計型)”のコンセプトは、そのトレンドをけん引するものだといえるだろう。この“Software-Designed”の進化の鍵を握っているのが、28 nmプロセスを使用した最先端のFPGAとデュアルコアプロセッサを組み合わせた独自のアーキテクチャだ。
センサ端末からモバイル機器、家電、インフラ機器まで、あらゆるモノに通信機器を搭載してネットワーク化する――。これが、いわゆるモノのインターネット(IoT:Internet of Things)だ。インターネットにつながるモノは急速に増えていて、Cisco IBSG(Internet Business Solutions Group)によれば、2015年までには250億個、2020年までには500億個に上ると予測されている。
NIWeek 2013の基調講演に登壇したナショナルインスツルメンツ(NI)のシニアバイスプレジデントのEric Starkloff氏は、このように機器同士がネットワーク化され、それらの機器をソフトウェアで制御するシステムが「プログラム可能な世界(Programmable World)」と定義されていることを紹介し、「こうしたプログラム可能な世界への移行は、計測機器の分野でも起きている」と主張した。
このトレンドをけん引しているのがNIだ。同社のモジュール式計測/制御用ハードウェアは、「ソフトウェアで設計可能な計測/制御機器」であることが最大の特徴である。すなわち、計測/制御機器を“プログラム”できるわけだ。
これを可能にしているのは、「RIOアーキテクチャ」である。プロセッサ、FPGA、入出力インタフェース部で構成されるRIOアーキテクチャは、NIの計測/制御用ハードウェアのほとんどに採用されている。システム開発ソフトウェア「NI LabVIEW」でFPGAを書き換えることで、ハードウェアをカスタマイズすることができる。
NIは、RIOアーキテクチャに最新のプロセッサやFPGAを採用することで、ハードウェアの性能の向上を図ってきた。2011年には、組込機器の制御や監視システムの構築などに使用される「NI CompactRIO」として、初めてマルチコアプロセッサを搭載した「cRIO-908x」を発表した。Intelのデュアルコアプロセッサ「Core i7」を採用したもので、従来機種に比べて処理性能が大幅に向上している。同社従来品「cRIO-9024」と新機種「cRIO-9082」を比べたとき、64チャンネルのPID制御時は5倍、32チャンネルのFFT処理時は22倍、といった具合だ(関連記事:計測/制御にマルチコアの恩恵を、再構成可能ハード「CompactRIO」の新機種発売)。
NIWeek 2013では、これまでにない新しいRIOアーキテクチャと、それを採用したNI CompactRIOが発表された。「NI cRIO-9068」である。
NI cRIO-9068の最大の特徴は、ARMのプロセッサコア「Cortex-A9 MPCore」をハードマクロとして集積する、XilinxのFPGA製品群「Zynq(ジンク)」を搭載していることだ。具体的には、動作周波数が667 MHzのARMのデュアルコアプロセッサ「Cortex-A9」と、XilinxのFPGA「Artix-7」を1チップにしたSoC(System on Chip)である。
計測/制御用ハードウェアにZynqを採用することは以前から公表していた(関連記事:Xilinxの「Zynq」採用やモバイルの活用も、NIが語る新たな組み込み開発)が、その第1弾として登場したのがNI cRIO-9068になる。
Artix-7は、28 nmプロセスを適用した最新のFPGA「7シリーズ」の1つである。8万5000個のロジックセルと、220個のDSPスライスを搭載している。従来機種である「NI cRIO-9074」に搭載されている90 nmプロセスのFPGA「Spartan-3」に比べ、ロジックセル数が2倍、DSPスライスが4倍になっているので、制御処理や信号処理、高度なタイミング処理など、より多くの論理回路を実装することが可能だ。
ZynqはプロセッサとFPGAの間に1万のインターコネクトを設けていて、それによってプロセッサとFPGA間の高速な通信を実現している。さらに、データ伝送速度が300 Mビット/秒のDMA(Direct Memory Access)チャンネルを16本備えている。
Zynqを搭載したRIOアーキテクチャを搭載したことで、NI cRIO-9068の処理性能は、NI cRIO-9074に比べて約4倍に向上した。なお、NI cRIO-9074は、Spartan-3とFreescale Semiconductorのプロセッサ「PowerPC MP5200」を搭載している。
基調講演では、NI cRIO-9068のデモンストレーションも行われた。半導体部品の検査装置などを手掛ける台湾のMaster Machineryは、ウエハー上のチップを画像認識システムで検査し、不良がないチップをピックアップする装置の制御にNI CompactRIOを使用している。他社の制御システムを使用していたときは1時間当たり1000〜2000個のチップを処理していた。NI cRIO-9074を採用した際は1時間当たり1万4000個に向上、さらにNI cRIO-9068を導入すると2万個まで処理スピードが高速化したという。
2番目の大きな変更点は、OSがWind RiverのVxWorksからLinuxに変わったことである。前述したように、NI cRIO-9068にZynq、つまりARMのプロセッサを使用することは開発の初期段階から決まっていた。さまざまなリアルタイムOSを検証していく中で、Linuxが最も適していると判断したという。当初はLinuxのディストリビューションを使用して検証していたが、産業機器を制御するには確定性が足りないということが分かってきた。そのため、NIは「60人年」を投資し、確定性が向上するようにLinuxの改良を進めていった。
NIの組み込みシステム R&D部門のバイスプレジデントを務めるKevin Schultz氏は、「Linuxは業界で標準になりつつあるので、今後どのようなハードウェアを開発したとしても、Linuxであれば問題ないだろうという見解があった」と語る。Linuxの巨大なコミュニティを活用できる点も大きい。コミュニティが開発したドライバやIPを利用できるので、ユーザにとっては設計の最適解が大量に転がっているようなものだ。
3つ目の特徴として、NI CompactRIOでは初めてC/C++言語に対応したことが挙げられる。これまでは、NI CompactRIOを導入する際はLabVIEWでコードを書くことを習得するしかなかった。だが、NI CompactRIOへの移行を検討するユーザがC/C++を扱っていることが多いことから、C/C++への対応を実現したという。NI cRIO-9068向けに、オープンソースのEclipseベースの統合ソフトウェア開発環境(IDE)を用意していることから、C/C++のコードの資産を有効に活用できるようになる。
OSにLinuxを採用し、C/C++に対応するNI cRIO-9068の登場で、NI LabVIEWおよびNI CompactRIOに移行する敷居は低くなった。C/C++のコード資産を活用したり、Linuxのサードパーティ製のIPやドライバを利用したりすることで、NI CompactRIOの用途はこれまでになかった分野にまで広がっていく可能性がある。
“プログラム可能な世界”へと移行しているのはモバイル機器や家電などの民生機器だけではない。計測/制御機器でも同じ動きは起こっている。Zynqという最新の半導体テクノロジーを採用したNI cRIO-9068は、そうした動きを後押しする原動力となるだろう。
高性能で堅牢性に優れた組込制御/監視用ハードウェア NI CompactRIO
▼ ▼ ▼
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年9月30日