100年に一度といわれる自動車業界の変革期において、MaaS(Mobility as a Service)への注目度が高まる中、NXP Semiconductorsは、MaaSの中核を担うゲートウェイに向けた包括的なソリューションの提供を強化している。大量のデータの処理に適した高性能プロセッサの他、アマゾン ウェブ サービス(AWS)との連携により構築したデモなど、具体的なユースケースを見据えた実用的なソリューションを展開することで、MaaS/SDV(Software Defined Vehicle)実現に向けた開発の加速に貢献する。
「CASE」や「MaaS(Mobility as a Service)」という新しい概念により、大変革期が始まっている自動車業界。自動車から収集するデータを生かす新しいビジネスモデルの模索が続いていることに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックや脱炭素といった社会的背景により物流や輸送、地域/都市間交通などが大きく見直されている中、MaaSへの注目度はこれまで以上に高まっている。富士経済が2020年11月に発表した予測によれば、日本国内のMaaS市場は2030年に2.5兆円に達する。国内外では、さまざまなユースケースに向けたMaaSの実証実験が進んでいる。
MaaSの根幹を成す要素の一つは、いうまでもなく「データ」だ。クルマに搭載されているセンサーからデータを取得し、それをローカル(車内)あるいはクラウドで処理、分析してモビリティサービスに生かす。ここで重要になるのが、車両内のネットワーク、データフロー制御とクラウド接続を司るゲートウェイだ。センサーから収集したデータの処理、クラウドとのセキュアかつ安定したリアルタイム通信など、ゲートウェイが担う役割は大きい。MaaS/SDV実用化の鍵の一つは、ゲートウェイが握っているといっても過言ではない。そして、そのようなゲートウェイは、実現できる段階にまで既に来ている。
NXP Semiconductorsが2021年6月に量産を開始した「S32G」車載プロセッサは、まさにそうしたゲートウェイに向けて開発された製品だ。CPUコアとは別に搭載されているネットワーク・ハードウェア・アクセラレーターにより、大量のデータでもスムーズに処理することができる。
さらに2020年11月には、AWSと、コネクテッドカーの機会拡大に向けた連携に基づくプレスリリースを発表。S32GとAWSクラウドを活用し、テレマティクス保険に向けたデモを披露することで、MaaSに向けたゲートウェイが実用化に近づいていることを具体的なユースケースで示した。
デモは、クルマの動きをシミュレーションするPC、S32Gを搭載した評価ボード、CAN to CAN通信を行うボード、AWSクラウドで構成される。S32Gを搭載した評価ボードをゲートウェイに見立ててクラウドと接続し、OTA(Over the Air)でS32Gをアップデートする様子や、車両内データをクラウドへアップロードする様子を見ることができる。
具体的には、クラウドの機能をローカルに拡張するソフトウェア「AWS IoT Greengrass Client Software」のコーディング済みコンポーネントをOTAによってS32Gに実装する様子や、車両の速度や位置情報、エンジンの回転数、ギアポジションといったCAN上のデータがクラウドにアップロードされ、AWSの各種サービスと連携する様子を示した。これにより一連のデータをクラウド経由で外部からリアルタイムで確認できるので、車両の状態監視や、車両の周囲の確認など、テレマティクス保険に必要な情報を取得できるようになる。このデモだけを見ても、MaaS向けのゲートウェイ技術が、PoC(Proof of Concept)の域を超え、実際のユースケースにかなり近い形で仕上がっていることが感じ取れるだろう。
NXPジャパン マーケティング統括本部 マイクロコントローラ部 マネージャを務める村田孝彦氏は「CAN上の車両データを処理してダッシュボードのようなユニットに送信しながら、必要なデータをクラウドにアップロードできるだけの処理性能を、S32Gは備えている」と語る。
「テレマティクス保険を含め、MaaSを支えるゲートウェイに向けた技術は、評価用や検証用だけでなく、実際に活用できるソリューションとして存在することをデモを通して知っていただきたい」(村田氏)
NXPは2021年12月にS32Gのファミリを拡充し、4製品を発表した。量産している既存ファミリに比べ、最大2.5倍のアプリケーションプロセッシング性能、オンチップメモリシステム、ネットワーキング性能を提供する。
データの処理性能と並んで重要になるのが、そのデータが流れる経路と管理である。MaaSやCASEというメガトレンドを背景に、ソフトウェア・ディファインド化される自動車の電子/電気(E/E)アーキテクチャは従来の分散型から、ドメインアーキテクチャ、ゾーンアーキテクチャへと進化しつつある。その中で最も大きく変わるのが車内配線だ。特にゾーンアーキテクチャでは、ワイヤハーネスの重量が圧倒的に削減できるメリットがある一方で、データの混在という課題も存在する。
NXPジャパン マーケティング統括本部 マイクロコントローラ部 担当部長である早坂学氏は「車両内通信データには、アクセル、ブレーキ、ステアリングのようなリアルタイム性が要求されるデータと、カメラやレーダー、LiDARのデータなど、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転、MaaSに使われる、高い帯域幅を要求するデータがある。ゾーンアーキテクチャでは、こうした性質の異なるデータが、例えば1本のイーサネット・バックボーン・ネットワークに混在することになる。そのため、異なるそれらのデータフローをいかに制御するかが課題になる」と語る。
そうした中でNXPが提案するのが、車載プロセッサにTSN(Time-Sensitive Networking)、DDS(Data Distribution Service)を組み合わせたソリューションだ。TSNは、標準イーサネットの規格が進化したもので、低遅延で高信頼性の高精度同期通信が可能になる。DDSは、通信ミドルウェアの国際標準規格でROS2にも採用されており、プラグ&プレイ機能や分散アプリケーション上で通信の信頼性とリアルタイム性を実現する事に強みを持つ。このためDDSミドルウェアとTSNとの親和性は非常に高い。
NXPジャパンの技術統括本部 オートモーティブMCU/MPU技術部 フィールド・アプリケーション・エンジニアの神谷聡氏は、「イーサネットのデータフローを細かく制御し低遅延・高信頼性なネットワークを実現するTSNと、アプリケーション間でリアルタイムかつ信頼性の高いデータ伝送を実現するDDSミドルウェアをうまく組み合わせることで、アプリケーション層からネットワーク層まで全てのデータパスを適切に管理し、リアルタイム・高信頼性が要求される制御データを確実に、時間通りに通信させることが可能になる」と説明する。
データフローがDDSミドルウェアとTSNにて適切に制御されていることを示すべく、S32Gの他、NXPのプロセッサ「LX2160」と「i.MX 8」、イーサネットスイッチ「SJA1110」を使ったデモを用意している。
下図にデモの構成を示す。S32Gが搭載された評価ボードをゲートウェイ、LX2160が搭載された評価ボードを自動運転ユニットに見立て、それぞれにSJA1110を接続する。ゲートウェイ側には車載インフォテインメント・システムを模擬したi.MX 8が接続され、自動運転ユニット側には、MaaSを模擬したもう1つのi.MX 8が接続されている。
デモでは、データの干渉やネットワークの障害が起こっても、TSNとDDSのQoS機能によりデータの送受信や処理が継続して行われている様子を確認できる。「シームレスな冗長性を実現するTSNの規格『IEEE 802.1CB』や、帯域制御、優先付けを行うIEEE 802.1Qav Credit-Based Shaper (CBS)』、『IEEE 802.1Q Priority-Based Scheduling (PBS) とDDSミドルウェアのQoS制御を組み合わせることによって、安全なネットワークと正確なデータフロー制御の両方を容易に実現できるようになる」(神谷氏)
DDSには、ECUやセンサーをプラグ&プレイでネットワークに追加できる「Service Discovery」という機能も備えており、車種毎に異なるユースケースやセンサー構成に合わせて柔軟なネットワークを構築しやすい。その点でもDDSはMaaSに適したミドルウェアである。NXPはオープンソース版 DDSベースと、パートナーの1社である日新システムズの商用版DDS「RTI Connext DDS」をベースにしたソリューションを提案しており、これはMaaS/SDVの開発者にとって大きなサポートになるはずだ。
「NXPは、S32GをはじめとするプロセッサからTSN対応イーサネットスイッチ、DDSのようなミドルウェアまで、MaaS/SDVの実現に必要な包括的ソリューションを提供している。MaaS/SDVの開発でこうしたソリューションをうまく活用し、限られたリソースを有効に使っていただきたいと考えている」(早坂氏)
NXPが提供する包括的かつ検証されたソリューションの存在は、MaaS/SDVの開発をより容易にし、加速させていくだろう。MaaS/SDVの実用化に向けたソリューションは、開発者の手の届くところにあるのだ。
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提供:NXPジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年3月31日