キオクシアが、AIデータセンター向けSSD市場で攻勢を強めている。AIの用途が学習から推論へ広がる中、大容量NANDへの需要は急拡大していて、同社は第10世代「BiCS FLASH」を武器に、メモリ市場での存在感を高めている。
キオクシアは、インタフェース速度4.8Gビット/秒(bps)の332層NANDフラッシュを発表し、メモリ業界のビッグ3であるMicron Technology(以下、Micron)とSamsung Electronics(以下、Samsung)、SK hynixを追い越した。キオクシアは、第10世代の3Dフラッシュメモリ技術「BiCS FLASH」をベースとして構築した1TbのTLC(Triple-Level Cell)方式のメモリデバイスのサンプル出荷を開始していて、主にエンタープライズ/データセンター向けSSDをターゲットに定めるという。
半導体メモリ市場は好況と不況を繰り返す「シリコンサイクル」で広く知られているが、現在ではAI時代に入り「ドル箱」へと変化した。キオクシアはメモリ業界のビッグ3と共に、歴史的な急上昇を遂げている代表的な企業の1社となった。しかし、MicronやSamsung、SK hynixがAIアクセラレーター向けの広帯域メモリ(HBM)需要を満たすための投資を重点的に行っているのに対し、キオクシアはNANDフラッシュ市場のみに焦点を絞っている。
半導体コンサルタントの大山聡氏は、Reutersの取材に対して「半導体メーカー各社はDRAMを優先しすぎて、NANDへの投資や開発を後回しにしてしまった。その結果、現在のNANDブームに全く対応できていない。だからこそ、現在の需要がキオクシアだけに集中しているのだ」と述べる。
岩井コスモ証券のアナリストである斎藤和嘉氏は「キオクシアは、同社のウエハーボンディング技術のおかげで、NANDの性能や消費電力などの面でライバル企業の2〜4年先を進んでいる。同社の『CBA(CMOS Directly Bonded to Array)』技術は、メモリセルと制御回路を別々のウエハー上で形成して貼り合わせることで、性能向上を実現する」と述べている。さらに、「OPS(On Pitch Select Gate Drain)」技術は、消費電力を入力側で10%、出力側に34%、それぞれ削減できる。
Omdiaのアナリストである南川明氏も、NANDフラッシュ分野におけるキオクシアの技術的なリードを認めている。同氏は「キオクシアのNANDチップは、米国のハイパースケーラーにとって最も重要とされるデータ処理速度の面で、競合製品よりも非常に優れている。最新の第10世代BiCS FLASHは、その点において大きく進化していて、非常に競争力が高い」と述べる。
キオクシアは、2017年に東芝メモリとして東芝からスピンオフして以降、苦境が続いていた。その翌年の2018年にBain Capital主導のコンソーシアムに買収され、2019年、日本語の「記憶」とギリシャ語の「axia(価値)」を組み合わせた「キオクシア」に改名した。当時のメモリ市場の長期低迷を受け、Bain Capitalは株式上場計画を2024年後半に延期せざるを得なかった。
その後、AIブームの到来によって状況は一変した。AIの利用範囲が、大量のデータを用いたモデルのトレーニングから推論へと拡大し、大容量NANDメモリの需要が急増したのだ。今や、NANDフラッシュを中心として構築される超大容量SSDは、データセンターのAIデータ推論を実行する上で重要な存在となっている。
こうしたことからキオクシアは、AIデータセンター向けストレージ需要の拡大を取り込む一方で、Appleのようなスマートフォンメーカー向けのメモリデバイスへの依存度を下げようとしている。キオクシア 代表取締役社長である太田裕雄氏は、エンタープライズ/データセンター向けSSDに加え、AIエージェントやAI生成コンテンツがロボットなどのスマート機器に広がることで、NANDフラッシュメモリ市場はさらに拡大するとみている。
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