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細胞1個を正確に飛ばす、インクジェット技術はエレから医療へiPS細胞の研究の発展に貢献か

ピエゾ方式インクジェット技術を、医療やバイオテクノロジーの分野に応用する試みが始まっている。水を吐出できない、ヘッドが洗浄できないといった理由で医療やバイオ分野では普及してこなかったが、マイクロジェットはこうした課題に応える製品を開発している。

» 2014年05月21日 17時22分 公開
[村尾麻悠子,MONOist/EE Times Japan]

 インクジェット技術を手掛けるマイクロジェットは、「BIO tech 2014(第13回 国際バイオテクノロジー展/技術会議)」のブース内セミナーで、ピエゾ方式インクジェット技術(以下、ピエゾインクジェット)を医療分野やバイオテクノロジー分野で応用する利点を解説した。

 ピエゾインクジェットは、ピエゾ素子に電圧をかけて伸縮させ、インクを吐出する方式である。1秒間に2000〜5万滴/ノズルと大量の液滴を形成できる上に、液滴量のバラつきは±1%以内と安定した吐出が可能だ。ターゲットには秒速10mで着滴し、飛び散ることがない。こうした特長からプリンタで広く採用されている他、エレクトロニクス分野でも活用されている。カーボンナノチューブ溶液を吐出してプラスチック基板にトランジスタを形成したり、有機ELパネルの製造に応用したりといった具合である。

医療/バイオには“不向き”

 ただ、医療やバイオテクノロジーの分野への応用は不向きだといわれてきた。水を吐出できない、ヘッドが樹脂や接着剤でできているのでサンプルなどを汚染する心配がある、ヘッドを洗浄しにくい、本質的に高度な技術なのでノウハウを必要とする、などの理由からだ。

 だが、医療/バイオ分野にピエゾインクジェットを適用できれば、メリットは大きい。例えば、粒径が非常に小さいドットを形成するのが得意であるという性質を生かして、DNAチップやタンパク質チップなどのバイオチップを容易に製造できる。デジタル制御で任意の場所に任意のタイミングで吐出できることから、パターンやラインを自由に形成することができるので、バイオセンサーの印刷や試薬の塗布に応用できる。マイクロジェットの代表取締役である山口修一氏は、「1個の細胞を狙った位置に吐出できれば、再生医療への応用が期待できる」と述べる。さらに、3次元の物体も形成できるので人工骨や人工血管も製作できる。

 そこでマイクロジェットは、ピエゾインクジェットを医療/バイオ分野で応用できるような装置やヘッドを開発してきた。「BioPrinter」は、電極形成と試料(バイオマテリアル)の吐出を1台で行える装置だ。ピコリットルオーダーで液量を制御できるピエゾインクジェットの特質を生かし、任意のパターンで回路を形成してバイオセンサーを製造することができる。「PipeJet」は、マイクロジェットが「究極の使い捨てヘッド」とうたうヘッドだ。これまでも使い捨てヘッドはあったが、ピエゾ素子を含むヘッド全体を取り替える必要があったため、コストが高かった。PipeJetはピエゾ素子でパイプ部分を押し出し、そのパイプだけを交換するのでコストを大幅に削減できるという。

 さらに、マイクロジェットが開発したヘッドは、直径が数十μmあるような細胞でも正確に吐出するように設計されているという。先述したように、粒径が小さいドット(直径0.2〜0.3μm)を作れるのがピエゾインクジェットの利点の1つだが、反対に粒径が大きくなると安定して吐出するのが難しくなる。

日本のインクジェット技術は世界一

 山口氏は、「iPS細胞が注目を集めているが、その研究を加速させるためにはiPS細胞を高精度にハンドリングできる技術が必要不可欠である」と語り、ピエゾインクジェットがiPS細胞の研究の発展に大きく貢献することを強調した。同氏は、「日本のインクジェット技術は世界一だ。エレクトロニクス分野だけでなく、医療やバイオの分野にもインクジェット技術を普及させたい」と締めくくった。

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