メディア

Intel低迷でSamsungが笑う? パッケージングのエース級人材が移籍有望スタートアップも続々設立(1/2 ページ)

Intelの業績低迷で、人材の流出が相次いでいる。Wall Street Journalの報道によると、Intelの半導体パッケージングの専門家が、ファウンドリー事業の最大のライバルであるSamsungに移籍するという情報が明らかになった。

» 2025年08月13日 11時30分 公開
[Majeed AhmadEE Times Japan]

 Intelの人員削減は、引き続き波風を立てている。優秀なエンジニアやマネジャーたちの動向がほとんど分からないからだ。しかし、Wall Street Journalの報道によると、Intelの半導体パッケージングの専門家が、ファウンドリー事業の最大のライバルであるSamsungに移籍するという情報が明らかになった。

500件の特許を持つエースがSamsungへ 開発縮小が理由か

 移籍が報じられたのはIntelで17年の実績を持つベテランであり、約500件の特許を保有するGang Duan氏だ。同氏はSamsung Electro-Mechanics Americaのエグゼクティブバイスプレジデントに就任するという。同氏の特許ポートフォリオには、マイクロバンプインターコネクトや再配線層(RDL:Redistribution Layer)技術などが含まれる。また同氏は、EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)やガラス基板などの先進パッケージング技術に貢献したとして、Intelの「2024 Inventor of the Year」を受賞している。

 Duan氏は、ヘテロジニアスチップ向けにパッケージ内での高密度インターコネクトを実現するEMIB技術の開発において重要な役割を担った。実際にIntelは、既に同社のサーバCPUでEMIBを採用していて、CPUを高速キャッシュでブリッジすることでレイテンシを低減している。

 さらに同氏は、ガラス基板の開発においても重要な役割を果たした。ガラス基板は既存の有機基板とは異なり熱膨張率が低く、400℃以上での平坦性に優れ、誘電損失が低い。しかしIntelは、2023年にガラス基板技術を発表した後、2024年にはその研究開発の規模を縮小すると発表している。ファウンドリー事業で大きな損失を出したことを受け、コスト最適化の取り組みの一環として、外部調達ソースを探していく考えを明らかにした。

ガラス基板技術の利点 ガラス基板技術の利点[クリックで拡大] 出所:Intel

 Duan氏がIntelを去る理由はまだ分かっていないが、Intelがガラス基板技術に関する最先端の取り組みから撤退したことが重要な要因となった可能性がある。Samsungが2025年にガラス基板のパイロットラインを構築し、2027年に量産を始める予定だというのも偶然ではないだろう。ガラス基板は、AIトレーニングモデルを駆動する次世代チップにとって不可欠だとされている。

 Intelの新CEOであるLip-Bu Tan氏は、レイオフとそれに伴う人材流出で注目を集めているが、これらは全て前任者であるPat Gelsinger氏の時代に始まったことだ。Gelsinger氏は任期中だった2024年に、100億米ドル規模のコスト削減計画を発表しているが、その中にはガラス基板の研究開発を縮小する計画も含まれていた。

スタートアップ設立も多数

 Intelを去るエンジニアたちは競合企業に移籍するだけではない。中間/上級管理職を中心に、これまでに培ってきた技術資本を活用して、半導体スタートアップを設立する者もいる。先進パッケージングの専門家であるSuresh Subramanyam氏は、2023年7月にIntelを去った後、インドで半導体パッケージング/システムプロバイダーInfinipackとWaaS(workload-as-a-service)のプロバイダーFlexAIの設立を支援している。

 さらに、元Intelのエンジニアたちが設立したスタートアップAheadComputingは、RISC-V命令セットアーキテクチャをベースとした画期的なアプリケーションプロセッサの開発を目指している。IntelのベテランだったDebbie Marr氏とJonathan Pearce氏、Srikanth Srinivasan氏、Mark Dechene氏の4人が米国オレゴン州ビーバートンに設立した同社は、AI/高性能コンピュータ(HPC)アプリケーション向けの半導体とIP(Intellectual Property)サポートに注力しているという。

「Pentium Pro」設計メンバーのDebbie Marr氏 「Pentium Pro」設計メンバーのDebbie Marr氏[クリックで拡大] 出所:AheadComputing

 この4人はみな、IntelのAdvanced Architecture Development Group(AADG)の元メンバーで、全員のIntelでの勤務年数を合計すると約100年にもなる。彼らが目指すのは、1コア当たりの性能が高いCPUコアを開発することだ。最近、著名なCPU設計者でありTenstorrentのCEOを務めるJim Keller氏が、AheadComputingの取締役会に参加したという。

 もう1社のスタートアップMihira AIも、Intelのエンジニアリング部門を起源とする企業だ。Intelは2022年に、ローカルハードウェアにグラフィック性能を追加することを目指すネットワークベースのソリューション「Project Endgame」を始動させた。しかしその1年後、この取り組みの延期を発表している。IntelのGPUを搭載したデータセンターからユーザーが自分のノートPCやスマートフォンにゲームをストリーミングできるようにすることを目指していたが、コスト削減が理由だった可能性が高い。

 IntelがProject Endgameの無期限中止を発表する数カ月前、Intelのグラフィックステクノロジー部門のシニアエグゼクティブが、データセンター市場のソフトウェアプロバイダーになることを目指すスタートアップへと去って行った。Raja Koduri氏は、5年間にわたってIntelのアクセラレーテッドコンピューティング/グラフィックス事業部門を率いた後で同社を去った。

 Koduri氏のスタートアップは、Project Endgameソフトウェアをライセンス供与し、グラフィックやAIワークロードを加速させるヘテロジニアスなデータセンターアーキテクチャの構築を目指すという。そのソフトウェアスタックの主な目的は、NVIDIAの「CUDA」やAMDの「ROCm」と競合できる、アグノスティック(agnostic)なソリューションを提供することだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.