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TSMCはもはや世界の「中央銀行」 競争力の源泉は150台超のEUV露光装置湯之上隆のナノフォーカス(85)(1/5 ページ)

2025年第3四半期、TSMCは過去最高の売上高と営業利益を記録した。なぜ、TSMCはここまで強いのか。テクノロジーノード別/アプリケーション別の同社の売上高と、極端紫外線(EUV)露光装置の保有台数を基に、読み解いてみたい。

» 2025年11月11日 11時00分 公開

過去最高の売上高と営業利益を記録したTSMC

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 TSMCが10月16日に発表した2025年第3四半期(Q3)の決算によれば、売上高は331億米ドル、営業利益は167.5億米ドルに達し、いずれも過去最高を更新した。かつて40%台前半まで落ち込んでいた営業利益率も、再び50%を上回る水準に回復している(そもそも40%台を「落ち込み」と呼ぶこと自体が驚異的である、図1


図1:TSMCの四半期の売上高、営業利益、営業利益率(〜2025年Q3) 図1:TSMCの四半期の売上高、営業利益、営業利益率(〜2025年Q3)[クリックで拡大] 出所: TSMCの決算報告書を基に筆者作成

 この売上規模(四半期)の高さを示すために、他の半導体主要企業と比較してみよう。1位のNVIDIA(467億米ドル)には及ばないものの、TSMCの331億米ドルは2位に位置し、3位のSamsung(半導体部門/232億米ドル)、4位のSK hynix(181億米ドル)、5位のBroadcom(160億米ドル)、6位のIntel(137億米ドル)などを大きく引き離している。ファウンドリー企業としては、突出した存在であることが分かる(図2

図2:四半期毎の半導体売上高ランキングTop6 図2:四半期毎の半導体売上高ランキングTop6[クリックで拡大] 出所:各社の決算報告書のデータを基に筆者作成

 さらに、以前から懸案とされていた四半期のウエハー出荷枚数も過去最高を更新した(図3)。TSMCのウエハー出荷は2022年Q3に397万枚でピークアウトした後、2023年Q3には290万枚まで減少し、その後も低空飛行が続いていた。しかし2025年Q2には372万枚まで回復し、Q3にはついに過去最高の409万枚を記録した。つまり、ウエハー出荷枚数でも完全にV字回復したことになる。

図3:四半期の出荷額とウエハ出荷枚数(〜2025年Q3) 図3:四半期の出荷額とウエハー出荷枚数(〜2025年Q3)[クリックで拡大] 出所:TSMCのHistorical operating Dataを基に筆者作成

 もっとも、問題がないわけではない。というのも、TSMCの最先端ノードである3nmおよび5nmの工場はフル稼働状態にある一方で、7nmよりルールが緩いノードの工場は稼働率がかなり低いと推察されるからである。

 では、なぜ、このような稼働率の偏りが生じるのか。

 本稿では、まずTSMCのノード別売上高の推移および、ノード別ウエハー投入量の変化を示す。次に、この2種類のデータを分析することにより、TSMCの業績好調の源泉が、ウエハー投入量を急速に拡大させている3nmと5nmノードにあること、7nmよりもルールが緩いノードの寄与が低下している実態を明らかにする。そして、その背景事情には、米国による対中半導体規制によって、成熟ノードに舵を切った中国半導体メーカーの存在があることを説明する。

 そのうえで、2020年から2025年の6年の間に、TSMCの主力ビジネスがスマホからAIおよびHPC(High Performance Computing)へと大きくシフトしたことを論じる。そして、この転換の技術的基盤が、累積150台超に達する極端紫外線(EUV)露光装置の活用にあることを指摘する。すなわち、150台を超えるEUVを稼働させてきた経験とノウハウの蓄積こそが、TSMCの圧倒的な競争力の源泉であり、Samsung、Intel、そしてRapidusが容易に追い付くことは難しいという結論を述べる。

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