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パワー半導体はリチウムイオン電池の再来か 中国勢台頭の現実味大山聡の業界スコープ(93)(1/2 ページ)

半導体製造装置など中国企業の発展、成長が著しい。特にパワー半導体分野において中国勢が台頭するのは時間の問題ではないかと思っている。今後中国製半導体製品はどのような進化、発展を目指しているのか。

» 2025年10月17日 11時00分 公開
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 本連載前回記事では「中国の半導体製造装置の現状」について紹介した。中国企業各社の発展や成長ぶりが著しいことはご理解いただけたと思う。ただ、筆者が特に注視しているのは、製造装置よりも半導体製品の方で、特にパワー半導体分野において中国勢が台頭するのは時間の問題ではないかと思っている。今後中国製半導体製品はどのような進化、発展を目指しているのか。中国における半導体製造の現状を踏まえながら、筆者の見解を述べさせていただく。

半導体自給率の上昇には苦心

 中国政府が10年前の2015年5月に発表した「中国製造2025」では、半導体が重要産業と位置付けられ、中国における半導体自給率を2025年までに70%に引き上げる、という極めて高い目標が掲げられていた。結論から言えば、この目標はかなり現実離れしている。実際には2025年で14%程度に留まる見通しで、2030年になっても同30%程度ではないか、と筆者は予測している。もともと極めて高い目標設定だったことに加え、2019年にHuaweiなどの中国企業を対象とした輸出規制強化によって、中国における最先端半導体製造が困難になったことが大きく影響している。中国政府としては、現実を見据えた上で新たな目標を設定する必要があるだろう。ただ、対中規制を行っている西側諸国としては、中国の自給率が何パーセントになるかはあまり注視していない。もちろん、世界最大の半導体消費国である中国において自給率70%が達成されれば、世界市場全体への影響も非常に大きくなるため、無視できない問題ではある。しかし、半導体にも規制対象の製品とそうでない製品があり、それぞれの分野において状況も影響も大きく異なるのが現状である。ここでは、ロジック、メモリ、それ以外の半導体に分けて分析を行ってみる。

ロジック:最先端の規制が継続される見込み

 対中規制は、「Huaweiに5G無線基地局の世界トップシェアを取られたら、西側諸国はバックドアリスクに十分な対応ができない」という危機感がキッカケで2019年から始まった。Huaweiは4G無線基地局でもNokiaとトップシェア争いを行う実績を持っており、5Gでトップシェアを取る可能性は十分に考えられた。5G無線通信には、基地局側にも端末側にも7nmプロセスクラスの最先端SoCを搭載する必要がある。7nmの実現にはEUV露光装置が必要なので、同装置の100%シェアを持つASML対して、EUV露光装置を中国に輸出してはならない、という規制を設けた。それまでHuawei向けに7nmクラスのSoC製造を担当していたTSMCにも、これをHuaweiに提供することを禁じた。Huaweiだけでなく、中国最大のファウンドリー企業であるSMICも規制の対象になり、これでHuaweiは5G対応機器の製造は不可能になった、と考えられていた。ところが2023年9月にHuaweiからリリースされたスマホ「Mate60」「Mate60Pro」が5G対応機種であることが判明。SMICが規制対象外だった液浸ArF露光装置とマルチパターニング手法を組み合わせて7nmプロセスを実現したらしい、という結論が導き出された。これによって米国政府は液浸ArF露光装置も規制対象に加えるなど、規制強化に乗り出した。今では5G基地局向けSoCだけでなく、AI機能実現に不可欠なGPUなども規制対象となっている。

 Huaweiが5G対応SoCの設計能力を持っていることは明白であり、AI分野では高度なGPU設計能力を持っているCambriconが「中国のNVIDIA」と呼ばれるなど、先端SoCの設計に関して高い能力を持っている中国企業は多数存在する。しかし現状では、これを実現するための製造技術がなく、最先端システムを実現できないのが現状である。従って中国では、自力で露光装置を開発しようとしていること、ただしそれを展示会などであまり公開していないこと、などについては前回に述べた通りだ。では中国では自力でEUV露光装置を製造できるようになるのだろうか。筆者としては「絶対に不可能」とは考えておらず、将来的には中国製EUV装置が実現する可能性はある、と見ている。しかしそれには長い時間、例えばあと10年前後の年月が必要だろう。そしてこのような状況を確認しながら、米国政府は対中規制を維持、あるいは強化する可能性が高いと思われる。

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