Synopsysが、Ansysとの合併を進める最中に10%の人員削減を実施した背景には、設計のオートメーションとAI適用があるのだろうか。
Synopsysが、Ansysとの合併を進める最中に10%の人員削減を実施したことで、業界メディアに波風が立っている。「このように大規模な人員削減の背景にある要因として、設計オートメーションとAIが挙げられるのではないか」という議論も巻き起こしている。SynopsysのようなEDA大手は、“AIファースト”のワークフローに多大な投資を行い、自律的にチップアーキテクチャを模索し、レイアウトを最適化し、手動での調整なしにリーク電流を削減しようとしている。
Synopsysは、Ansysを350億米ドルの現金と株式交換によって買収した。より効率的な経営モデルを構築するというこの企業統合の目的が、どのようにして約2000人もの高賃金従業員の削減へとつながったのだろうか。
半導体設計ツールメーカーSynopsysと、航空宇宙や自動車、半導体などに向けたマルチフィジックスシミュレーションソフトウェアを専業とするAnsysの合併は、チップツーシステム(chip-to-system)の設計大手企業を誕生させることを目的としていた。
しかし、この買収は、経営陣が経営効率化や機能的重複の削減を進めていくに伴い、この先直面するであろう予期せぬ結果をもたらしている。
ある意味、このような大規模な人員削減は、大手EDAメーカーがさらに規模の大きいEDAメーカーに買収された場合、避けられないものだったといえる。つまり、2社の複雑なソフトウェアポートフォリオとそれぞれに対応する組織的構造を統合するには、全面的な改革が必要だったのだ。
公式見解によると、このような人員解雇は、事業効率を高め、投資先をより大きな成長が見込める分野へと変更していく上で、必要な措置だったという。しかし、ここで注記すべき重要な点は、こうした人員削減は、Synopsysが2025年9月に業績発表を行った時点から、既に実施される可能性があったということだ。
このため、Ansysとの合併が主要なきっかけとなったのは明らかだが、Synopsysが過去20年間で最大規模となる人員削減を実施した背景には、その他にも要因があるのだろうか。業界観測筋がしばしば指摘するのは、Synopsysの2025年第3四半期の売上高が予測を下回ったという点だ。
Synopsysは、この売上高減少の原因として、中国市場の低迷と、大手ファウンドリー顧客の減速を挙げている。米国政府は、2025年5月にEDAツールに関する輸出規制を課し、同年7月に撤廃したが、6週間に及ぶこの規制措置は、Synopsysのバランスシートに深刻な影響を及ぼした。
この制裁措置のために、新しい半導体設計の始動計画に混乱が生じ、中国のIC設計メーカーは長期的なコミットメントに対して慎重になってしまった。それでも、Synopsysにとって米国に次ぐ2番目に大きい市場である中国は、2025年第3四半期の売上高全体の14.2%を占めている。
Synopsysは中国の低迷の他にも、設計IP(Intellectual Property)分野の減速や、大手ファウンドリー顧客が直面している困難な課題などについて指摘する。Reutersの報道によると、Synopsysはあるファウンドリー向けに特化したIPを開発するために膨大なリソースを投資しており、2025年後半にはその見返りを得られる予定だったという。
しかし、そのファウンドリー顧客がいくつかの理由で撤退したため、SynopsysのIP事業部門の売上高は8%減少した。Synopsysはこのファウンドリー顧客の名前を明かしていないが、業界筋は、Intelではないかとみているようだ。Intelは、18Aプロセスノードを主に社内で利用するという計画を提示していた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
記事ランキング