東北大学は、室温で窒化物薄膜を形成した熱電デバイスを試作し、既存の高性能熱電薄膜に匹敵する出力密度を実現した。クロム窒化物(CrN)薄膜にチタン(Ti)を添加することで、熱電性能を示すパワーファクターを純CrNの約250倍に向上させた。
東北大学は2026年10月、室温で窒化物薄膜を形成した熱電デバイスを試作し、既存の高性能熱電薄膜に匹敵する出力密度を達成したと発表した。クロム窒化物(CrN)薄膜にチタン(Ti)を添加することで、熱電性能を示すパワーファクターを純CrNの約250倍に向上させた。
熱電材料は、さまざまな機器から放出される廃熱を電力に変換することができる。中でも、薄膜の熱電材料はデバイスの集積化や小型化に対応できるため注目されている。特に、CrNは、熱電特性に優れ高温環境下でも安定に動作するといった特長がある。ところが、高い熱電性能を実現しようとすれば、高温での成膜やエピタキシャル成長を行う必要があり、使用する基板が制限されるなど、課題もあった。
研究グループは今回、クロム(Cr)に比べ窒素(N)との電気陰性度差が大きいTiに着目した。具体的には、CrとTiのターゲットを用いて、Nを導入した反応性スパッタリングにより、室温環境でTi添加CrN薄膜を作製した。Tiのスパッタ出力を変えると、Ti濃度を4.6〜9.3at.%の範囲で制御できる。いずれの薄膜も純CrNと同じ結晶構造であった。
作製した薄膜について、電気特性とゼーベック係数を測定した。これにより、Tiを添加したことで抵抗率が大きく下がることを確認した。これは、移動度が約2桁向上したことによるものだという。一方で、Tiを添加したことにより、キャリア濃度は減少した。この結果、ゼーベック係数の絶対値は100μVK-1超となった。
移動度の向上とキャリア濃度の低減が同時に起きたことで、これまで課題といわれてきた電気伝導率とゼーベック係数のトレードオフが解消された。熱電性能を示すパワーファクターは5.26μWcm-1K-2となり、純CrNに比べ約250倍も向上させた。この値は室温での成膜でありながら、高温プロセスで作製した熱電薄膜と同等かそれ以上の水準だという。
研究グループは組成分析を行い、性能向上のメカニズムを調べた。Ti添加CrN薄膜は、純CrNに比べNの含有量が増えていた。X線光電子分光法による解析では、Nの欠陥に由来する成分がTi濃度の上昇に伴って減少したことが分かった。これらのことから、TiがCrN中のNを安定に保ち、N空孔の形成を抑えていることを実証した。
動作実証を行うため、開発したTi添加CrN薄膜を用い、ガラス基板上に熱電デバイスを作製した。そして、ヒーターとペルチェ素子を用いて、デバイスの発電特性を調べた。n型Ti添加CrN薄膜を用いたuni-leg型デバイスは、温度差96Kで最大出力455.8nWとなった。薄膜の断面積当たり出力密度は38.0mWcm2に達した。p型CrN薄膜と組み合わせたin-plane型デバイスは、温度差97Kで180mVの開回路電圧が得られた。
今回試作したin-plane型デバイスでは高い電圧が得られたものの、出力はuni-leg型デバイスを下回った。その原因は、n型Ti添加CrN薄膜に比べp型薄膜の熱電特性が低いためだという。今後、p型薄膜の性能向上に取り組みデバイスとしての出力を高めていく計画である。
今回の研究成果は、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)・学際科学フロンティア研究所の双逸助教と、同大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻の倉橋純也大学院生、須藤祐司教授らによるものである。
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