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番外編 電源フィルタの設計に悪戦苦闘、雑音を抑えるはずが発振状態に…(後編)Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/2 ページ)

» 2010年11月10日 00時00分 公開
[美齊津摂夫ディー・クルー・テクノロジーズ]
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電源ゆらぎが増幅されて次々伝わる

 それでは、電源電圧VCC2の変動は、OUT3の出力電圧に対してどれほどの影響を与えるのでしょうか。

 図2(a)に示した各アンプの内部構成(図3)を見ると、影響の伝わり方が分かります。すなわち、出力OUTは、トランジスタのコレクタ(C)から取り出しているので、電源VCCが揺すられると、そのまま揺れて出力されてしまいます。

図3 図3 アンプの内部構成 今回採用したエミッタ接地増幅回路の出力は、トランジスタのコレクタです。従って、電源VCCが揺すられると、出力もそのまま揺れて出力されます。

 図2(b)のAC解析の結果と、図3に示したアンプの内部構成とを総合すると、以下のことが分かります。まず、アンプX1の出力V(out1)の利得は、電源電圧VCC2のゆらぎがそのまま出力されるので、利得はほぼ0dBです。その出力V(out1)がアンプX2で増幅されて出力V(out2)に表れます。その後さらに、アンプX3で増幅され、最終的には出力OUT3の利得は、50dB近くになってしまいます。

 これは、もし何らかの理由でアンプ全体の消費電流が1mA変化したとすると、結果としてアンプX3の出力V(out3)には、約300倍(50dB)もの電圧に相当する300mVが出力されることを意味しています。

正帰還が掛かる可能性

 電流源を信号源として入力しているので、300mVが出力されたとしても、結果としてアンプ全体の消費電流が安定していれば、何も起きないはずです。ところが、アンプ全体の消費電流は、図4(a)のように変化しています。

図4図4 図4 アンプ全体の消費電力の変化の様子 (a)アンプ全体の消費電流の利得(黄緑色)や、アンプX3の消費電流の利得(水色)などを示しています。周波数が1MHz〜10MHzの範囲で、アンプ全体の消費電流の利得が8dBもあります。(b)はアンプX3の帰還経路です。図2(a)にも赤色の線で示しています。

 注目したいのは、黄緑の線で示したアンプ全体の消費電流の利得が0dBを超え、約8dBになっていることです。すなわち、電流源で変化させた電流(揺すられた電流)よりも、大きな電流変化が生まれています。

 アンプ全体の消費電流の変化のほとんどが、アンプX3の消費電流の変化に依存していることも分かります。利得が8dBもあるので、正帰還が掛かり、発振する可能性があります(位相余裕が確保できていれば、理論的には発振はしないはずですが…)。 帰還経路を、図2(a)中の赤色の線で示しました。正帰還が掛かる変化の様子をまとめると、以下のようになります(図4(b))。

(1)X3の消費電流が増える。

(2)VCC2の電位が下がる。

(3)OUT1の電位が下がる。

(4)OUT2の電位が上がる。

(5)ステップ(1)に戻る。

 X3の消費電流(VCC2からX3を通り、グラウンドに向けて流れる電流)が増えることは、図2(a)において、電源フィルタを電源から負荷側に流れる電流(L1を左から右方向に流れる電流)が増えることを意味します。

 これによって、ステップ(2)の通り、VCC2の電位が下がり、VCCとVCC2の電位差が広がります。VCC2の電位が下がると、図3に示した通り、OUT1の電位が下がります。その後、X2は反転増幅器ですので、OUT1の電位が下がったことでOUT2の電位が上がり、アンプX3の消費電流が増えてしまいます。

図5 図5 正帰還を防ぐ電源フィルタを追加 (a)は、アンプX3からアンプX1への正帰還を防ぐ電源フィルタを追加したアンプです。X3専用の電源フィルタを追加したことで、図中の赤い点線に示した帰還経路を遮断しました。(b)は、出力電圧の時間変化です。V(out3)を見ると、きれいな正弦波が出力されていることが分かります。

 帰還経路を切って発振を防止するには、図5(a)のように、アンプX3専用の独立した電源フィルタを追加する対策が有効です。これによって、アンプX1に戻る帰還経路を遮断します。図5(b)に、新たな対策を施した結果を示しました。青色の線で示したV(out3)がきれいな正弦波になっています。やっと発振が止まり、正常な動作をするようになったことが分かります。

 次回以降、これまで使用してきたバイポーラトランジスタ回路を、CMOSトランジスタに置き換えて、さまざまなアナログ回路を紹介していきましょう。

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Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」(同氏)。


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