それでは、電源電圧VCC2の変動は、OUT3の出力電圧に対してどれほどの影響を与えるのでしょうか。
図2(a)に示した各アンプの内部構成(図3)を見ると、影響の伝わり方が分かります。すなわち、出力OUTは、トランジスタのコレクタ(C)から取り出しているので、電源VCCが揺すられると、そのまま揺れて出力されてしまいます。
図2(b)のAC解析の結果と、図3に示したアンプの内部構成とを総合すると、以下のことが分かります。まず、アンプX1の出力V(out1)の利得は、電源電圧VCC2のゆらぎがそのまま出力されるので、利得はほぼ0dBです。その出力V(out1)がアンプX2で増幅されて出力V(out2)に表れます。その後さらに、アンプX3で増幅され、最終的には出力OUT3の利得は、50dB近くになってしまいます。
これは、もし何らかの理由でアンプ全体の消費電流が1mA変化したとすると、結果としてアンプX3の出力V(out3)には、約300倍(50dB)もの電圧に相当する300mVが出力されることを意味しています。
電流源を信号源として入力しているので、300mVが出力されたとしても、結果としてアンプ全体の消費電流が安定していれば、何も起きないはずです。ところが、アンプ全体の消費電流は、図4(a)のように変化しています。
注目したいのは、黄緑の線で示したアンプ全体の消費電流の利得が0dBを超え、約8dBになっていることです。すなわち、電流源で変化させた電流(揺すられた電流)よりも、大きな電流変化が生まれています。
アンプ全体の消費電流の変化のほとんどが、アンプX3の消費電流の変化に依存していることも分かります。利得が8dBもあるので、正帰還が掛かり、発振する可能性があります(位相余裕が確保できていれば、理論的には発振はしないはずですが…)。 帰還経路を、図2(a)中の赤色の線で示しました。正帰還が掛かる変化の様子をまとめると、以下のようになります(図4(b))。
(1)X3の消費電流が増える。
(2)VCC2の電位が下がる。
(3)OUT1の電位が下がる。
(4)OUT2の電位が上がる。
(5)ステップ(1)に戻る。
X3の消費電流(VCC2からX3を通り、グラウンドに向けて流れる電流)が増えることは、図2(a)において、電源フィルタを電源から負荷側に流れる電流(L1を左から右方向に流れる電流)が増えることを意味します。
これによって、ステップ(2)の通り、VCC2の電位が下がり、VCCとVCC2の電位差が広がります。VCC2の電位が下がると、図3に示した通り、OUT1の電位が下がります。その後、X2は反転増幅器ですので、OUT1の電位が下がったことでOUT2の電位が上がり、アンプX3の消費電流が増えてしまいます。
帰還経路を切って発振を防止するには、図5(a)のように、アンプX3専用の独立した電源フィルタを追加する対策が有効です。これによって、アンプX1に戻る帰還経路を遮断します。図5(b)に、新たな対策を施した結果を示しました。青色の線で示したV(out3)がきれいな正弦波になっています。やっと発振が止まり、正常な動作をするようになったことが分かります。
次回以降、これまで使用してきたバイポーラトランジスタ回路を、CMOSトランジスタに置き換えて、さまざまなアナログ回路を紹介していきましょう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.