インテルとアップルによる「Thunderbolt」の発表により、PC業界や民生機器業界に衝撃が走った。しかしThunderboltについては、まだ数多くの疑問が残されている。よくある質問をまとめた。
2011年2月24日、インテルとアップルによる「Thunderbolt」の発表により、PC業界や民生機器業界に衝撃が走った。Thunderboltは、FireWireもUSB3.0も超えるハイエンドのインタフェース技術である(参考記事:アップルの最新ノートが新高速インタフェース「Thunderbolt」搭載、USB 3.0の行方に暗雲か)。
Thunderboltについては、まだ数多くの疑問が残されている。インテルは、それらのうち特に大きな疑問について答えを明らかにした。EE Timesは、Thunderboltに関するよくある質問をまとめた。
インテルは、現時点では、Thunderboltを採用した製品を製造するパートナー企業にのみ、その技術仕様のすべてを機密保持契約ベースで公開している。インテルは、2011年7月までに開発者キットを発売する予定で、そこにはThunderboltの技術仕様も含まれる。しかし、同仕様の詳細をウェブ上で公開する計画は現時点ではないという。
Thunderboltは、インテルが開発した新しいインタフェース技術で、初めて採用したのはアップルの新型ノートPC「MacBook Pro」である。10Gビット/秒のデータ転送速度の双方向チャネルを2本備え、総スループットは最大40Gビット/秒に達する。このチャネル上でデータを転送する際のプロトコルは、PCI ExpressとDisplayPortの2つに対応する。
インテルはThunderboltのアプリケーションをいくつか定義している。
Thunderboltを使うと、柔軟性のあるシステムを作り出せるようになる。例えば、薄型のノートPCやシンクライアント端末にこの技術を用いれば、ハイエンドのドライブや、ディスプレイ、その他の外部デバイスを接続できるようになる。これらのデバイスをすべてひとつの筐体に組み込む必要が無くなる。Thunderboltは、もともとはインターコネクト技術だったPCI Expressのリンクを、筐体の外部に引き出すものだともいえる。
Thunderboltを利用すれば、PCやカメラ、ドライブ間で大容量のファイルを短時間で送信できるようになる。ディスプレイへの接続時には、DisplayPortプロトコルも用いる。
USBは消滅しない。インテルは、今後もUSBをサポートし、自社製のPC用次期チップセットにUSBの新世代規格であるUSB 3.0を組み込む計画である。同社は、ThunderboltとUSBは相互補完的な関係にあり、それぞれ異なる用途に対応するものだとしている。
ただし、インテルは、一部の分野でUSB3.0とThunderboltの用途が重複していることも認めている。特にストレージ分野では、チップメーカー数社が、外部ストレージアレイに向けて、USB 3.0とシリアルATA(SATA)の変換に対応する製品を供給している。
インテルでThunderboltのプランニングとマーケティングを担当するディレクターのJason Ziller氏は、「(USB 3.0とThunderboltの両方を使うことによって)さまざまな価格/性能のモデルを提供し、ユーザーに選択してもらうことが可能になる」と述べた。
Thunderboltが幅広く導入されるようになれば、USBの売上や出荷数が停滞する可能性もある。しかし、USBはすでに幅広い分野で普及しているため、今後も極めて長い期間にわたってサポートが継続し、成長を続けていくだろう。
予測し得る未来にわたっては、インテルだけだ。
インテルは現在、Thunderbolt搭載コントローラチップを供給しているが、他のメーカーに対しても同様のチップを製造できるように仕様を公開するかどうかについては明らかにしていない。また、コントローラに関する詳細も現時点では不明である。価格や寸法、消費電力などの情報だけでなく、ホストコントローラと周辺コントローラが個別に必要なのかどうかも分からない。
Thunderboltは現在のところ、銅線ケーブル版のみが提供されており、最大3mまで対応する。インテルによると、光ケーブル版については現在も研究開発に取り組んでいる状況だという。最終的には光ケーブル版も提供できるが、それは数年先になる可能性があるとしている。
Thunderboltそのものに関する情報と同様に、Thunderbolt独自の銅線ケーブルについても、詳細は明らかになっていない。
確かにインテルは当初、Thunderboltを「Light Peak」と呼び、システム間の光接続インタフェースとして発表していた。しかし、インテルでThunderboltのエンジニアリング担当ディレクターを務めるAviel Yogev氏によると、その後その方針は変更されたという。
同氏は、「機器メーカー各社から、『光インタフェースは、ベンダー側でコストを大幅に削減しない限り、採用するのは難しい』という声が上がった。将来的にはいずれ光インタフェースに移行していく必要があるが、まだ今後数年の間は、(銅線ケーブルなどの)電気的なインタフェース(が現実的)だろう」と述べている。
さらに同氏は、「われわれは、光接続の開発を断念したわけではない。光接続はわれわれの将来の計画には載っており、やがて必要になるときが来るだろう。現在も引き続き研究開発に取り組んでおり、適切なタイミングを見計らっている」と付け加えた。
ロードマップについても詳細は不明だ。インテルは、2013年までにT(テラ)ビット/秒をサポートするとほのめかす。10Gビット/秒のレーンの数を増やしたり、レーン当たりの転送速度を高めたりという方法を採るのかもしれない。インテルは、最終的には光ケーブルをサポートする予定であり、転送速度を高められる上に、数十mの伝送距離に対応できる可能性があると述べている。
アップルは、Thunderboltをホスト機器に搭載する最初のメーカーになるというインテルからの提案に合意し、ノートPCのMacBook ProにThunderboltを搭載した。しかし、アップルの他にThunderboltをサポートする機器メーカーは存在するのだろうか。もし存在するならば、その企業はどこなのか。これらは現時点では不明である。
一方、周辺デバイスのメーカーについては、複数社がThunderboltのサポートを検討しているようだ。そうした企業としては、Aja、Apogee、Avid、Blackmagic、LaCie、Promise、Western Digitalなどが挙げられる。ただし、これらのメーカーのうち、実際に動作する製品を披露しているのはわずか2社にとどまるという。また、いずれの企業も、出荷する製品やその時期、価格などについては、詳細を明らかにしていない。
現時点では、こうした企業の中に半導体ベンダーの名前は挙がっておらず、Seagate TechnologyやHitachi Global Storage Technologies(日立GST)、東芝などのドライブ装置の大手メーカー、アップル以外のPCメーカーの名前も無い。
たぶんこれは、答えが見えない疑問の中でも最も大きいものだろう。かつて、FireWireはハイエンドコンピュータや民生向けのインタフェースとして成功を約束されているかのように見えた。半導体ベンダーから機器メーカーに至るまで幅広い支持を獲得していた上、スループットやレイテンシーでもUSBをはるかに引き離していた。
皮肉にも、アップルはFireWireを早期に機器に組み込んだ企業のうちの1社だった。
しかしFireWireの支持者らは、FireWireのある面で長く、困惑されるロードマップから脱落していった。その一方でUSBは着実にデザインウインを増やし続け、データ転送速度についても定期的に向上を図りFireWireとのギャップを埋めていった。
FireWireは、Thunderboltが登場するまでは幅広い支持を失った状態にあり、USB 3.0はそれを飛び越えられる態勢にあった。
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