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ARMがGPUの新プロダクトを発表、搭載コア数と演算処理パイプラインを倍増プロセッサ/マイコン GPU

ARMが発表したGPUファミリ「Mali」の新プロダクト「Mali-T658」は、従来と比べてグラフィックス処理能力とGPUコンピューティングの演算能力が大幅に高められている。2013〜2014年ごろに市場投入される高性能スマートフォンに採用される見通しだ。

» 2011年11月10日 21時55分 公開
[朴尚洙,EE Times Japan]

 ARMは2011年11月10日、東京都内で会見を開き、GPU(グラフィックスプロセッシングユニット)ファミリ「Mali」の新プロダクト「Mali-T658(以下、T658)」を発表した。グラフィックスの最大処理能力は、2008年6月に発表した「Mali-400 MP」の10倍、2010年11月に発表した「Mali-T604(以下、T604)」の2倍を実現できるという。GPUコンピューティング(GPGPU)の演算処理能力については、T604の4倍となった。同社のアプリケーション処理用プロセッサコア「Cortex-A15」と「Cortex-A7」を搭載する、2013年〜2014年ごろに市場投入される高性能スマートフォンのGPUとしての利用を想定している。Mali-T658のライセンシー企業としては、富士通、LG Electronics、Samsung Electronics、中国企業であるBeijing Nufrontの名前が挙がっている。

 ARM社長のTudor Brown氏は、「今回、Maliの新プロダクトを日本で発表したのは、われわれのビジネスにとって日本市場におけるGPUの展開が重要な意味を持っていると考えているからだ」と語る。そして、「現行のスマートフォンで求められるグラフィックス処理能力は、5年前と比べて25倍にもなっており、今後もこの傾向は続くだろう。また、AR(拡張現実)や音声認識などの機能向けに、より高いGPUコンピューティングの処理能力も求められるだろう。T658は、これらの要求を満足するとともに消費電力の低減も可能なように既存のプロダクトよりも機能を向上している」(Brown氏)と利点を強調した。日本法人アームの社長を務める西嶋貴史氏も、「2007年に『Mali-200』を発表して以降、ARMはGPUの展開にも注力している。特に、GPUが重要な役割を果たす、ゲーム機や車載情報機器などの有力メーカーが多い日本は重要な市場だ」と述べた。

ARMのTudor Brown日本法人アームの西嶋貴史氏 ARMのTudor Brown氏(左)と日本法人アームの西嶋貴史氏。

 T658は、T604と同じMidgardアーキテクチャを採用したGPUで、Maliの最上位品となる。搭載可能なグラフィックスコア(シェーダコア)の数は、T604が1〜4個であるのに対して、T658は1〜8個となっている。また、各グラフィックスコアが備えるGPUコンピューティングに用いる演算処理パイプラインの数を2本から4本に倍増させた。一方、グラフィック処理に用いるパイプラインの数に変更はない。このため、最大搭載数である8個のグラフィックスコアを備えるT658と、4個のグラフィックスコアを備えるT604を比較した場合、グラフィックス処理能力は2倍、GPUコンピューティングの演算処理能力は4倍になるわけだ。

「Mali-T658」のパイプライン構成 「Mali-T658」のパイプライン構成 「Mali-T604」と比べて演算処理(Arithmetic)パイプラインが2本から4本に倍増している。

 対応するAPI(Application Program Interface)は、グラフィックスがOpenGL ES 2.0/1.1、OpenVG 1.0/1.1、Khronos、MicrosoftのDirectX 11で、GPUコンピューティングがOpenCL 1.1、GoogleのRenderscript、MicrosoftのDirectComputeとなっている。DirectX 11やDirectComputeへの対応を見ると、MicrosoftがARMプロセッサ版の「Windows 8」の開発を進めているのに合わせて、ARMもMicrosoftのAPIに対するGPUの対応を進めていることが分かる。

 ARMのメディア・プロセッシング部門でストラテジック・マーケティング担当のバイスプレジデントを務めるKevin J Smith氏は、「T658は、キャッシュコヒーレントであることを特徴とするARMのインターコネクトIPと併用することにより、GPU側からメモリに直接アクセスできる。このため、プロセッサコアを動作させることなくグラフィックス処理や、GPUコンピューティングを行うことができる。また、処理負荷に合わせてCortex-A15とCortex-A7を切り替える『big.LITTLE処理』(EDN Japanの参考記事1)との組み合わせて利用するのに最適化してある」と説明する。さらに、「T604でも採用している、グラフィックス処理の負荷を各コアに最適に分散するハードウェアベースの機能「Job Manager」により、プロセッサコアへの処理負荷を抑えながらグラフィックス処理を実行できる。この機能も、big.LITTLE処理との組み合わせにおいて最適なものとなっている」(Smith氏)という。同氏が示した、モバイル機器に搭載されるARMのプロセッサコアとGPUのロードマップでは、2013年後半に登場する高性能スマートフォンに、Cortex-A15とCortex-A7を2組と4コア構成のT658が搭載される見込みだ。

ARMのKevin J Smith氏モバイル機器に搭載されるARMのプロセッサコアとGPUのロードマップ 左の写真はARMのKevin J Smith氏。右手に持っているのは、「Mali-400 MP」を搭載するSamsung Electronicsのスマートフォン「Galaxy S II」である。右側の図は、モバイル機器に搭載されるARMのプロセッサコアとGPUのロードマップである。緑色で示す領域が高性能スマートフォン(Superphone)。青色で示す領域は普及価格帯のモバイル機器である。赤色で示す領域は、高性能スマートフォンと普及価格帯のモバイル機器の中間に位置する製品である。

 また、Smith氏は、「T658は、64ビットのプロセッサアーキテクチャ「ARMv8」(EDN Japanの参考記事2)との組み合わせてにも適している。同じ64ビットアーキテクチャであるT658とインターコネクトIPと組み合わせれば、システム全体として処理がスムーズになる」と述べている。

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