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ARMが64ビットアーキテクチャを発表も、サーバ市場での勝負はまだ不利かプロセッサ/マイコン ARMマイコン

ARMが64ビットに対応する次世代アーキテクチャの概要を発表した。これによって、ARMのパートナー企業のチップベンダーが本格的にサーバ市場に参入するとみられているが、アナリストは「同市場でIntelなどと勝負するには、専門知識や経験の点で不利である」と指摘する。

» 2011年11月01日 12時34分 公開
[Sylvie Barak,EE Times]

 ARM(アーム)は、2011年10月25〜27日に米国カリフォルニア州サンタクララで開催した「ARM TechCon 2011」において、次世代アーキテクチャとなる「ARMv8」を発表した(EDN Japanの参考記事)。同社初となる64ビットの命令セットを搭載しており、これによってARMベースのプロセッサは、コンシューマおよび企業向け市場の新たな分野に参入していくことになるだろう。

 ARMのCTO(最高技術責任者)を務めるMike Muller氏は、「ARMv8には、64ビット実行モードの『AArch64』と32ビット実行モードの『AArch32』という、2つの実行モードがある。AArch64は、新たに開発した命令セット『A64』の下で動作する。一方AArch32は、ARMの既存の命令セットに対応する」と説明した。

 ARMv8は、32ビットの「ARMv7-a」と完全な互換性を備えており、32ビットアプリケーションと64ビットアプリケーションの両方において利便性を最大化できるように設計されているという。

 Muller氏は、「ARMv8は、エネルギー効率に優れた64ビットコンピューティングの利点を、ハイエンドサーバやハイエンドコンピューティングといった新たなアプリケーション分野にもたらす。旧世代と共通のアーキテクチャを採用しているため、下位互換性を有し、既存のソフトウェアの移行も可能だ」としている。

ALT Mike Muller氏

 また、同氏は、「64ビットOSは、既存の32ビットソフトウェアを簡単かつ効率的にサポートできる」と説明する。

 「これまでのところ、ムーアの法則は忠実に実現されてきた。だが、それももう限界に達しようとしている」。Muller氏はライバルであるIntelへの皮肉を込めて、こう語った。そして、「より多くのコアを搭載するという傾向は変わらないだろう。だが、今後のために重要なのは、“エネルギー効率の悪いコアをいくつか集積する”ことではなく、“エネルギー効率に優れたコアを数多く集積すること”だ。問題となるのは、コアレベルでのエネルギー効率ではなく、システムレベルでのエネルギー効率なのである」と述べた。

 既に、NVIDIAなどARMのパートナー企業数社が、サーバの用途を狙うと発表している。だが、ARMの64ビットアーキテクチャが発表されるまでは、サーバ市場における競合相手とは見なされなかった。サーバを購入する企業は、現在稼働しているソフトウェアを仕えない機種に投資するとは考えられなかったからである。

 Muller氏は、64ビット対応の重要性を強調しながらも、「新たなアーキテクチャの構築は、すぐにできるものではない。少なくとも2〜3年を要するだろう」と述べる。「それでも、64ビットに対応することは、当社の事業の将来的な拡張性を確保するために重要である。ただし、エコシステムの構築は時間がかかるものであり、当社はそれを十分に認識している」(Muller氏)。

 ARMv8に基づくプロセッサを発表できるのは2012年、さらにそれを搭載したサーバの試作機の発表は2014年になる見込みだという。

 PC関連技術の記事やホワイトペーパーの発信を手掛ける米国のReal World Technologiesでアナリストを務めるDavid Kanter氏は、「いずれにしろ、ARMは今後4〜5年以内に、携帯電話機やタブレット端末に向けて64ビットへの対応を進める必要があった。興味深いのは、ARMのパートナー企業であるCalxedaやNVIDIAなどが、サーバ市場をターゲットとする方針を示したことで、AMDやIBM、Intel、Oracleと競合することになる点だ」と述べている。

 Kanter氏によると、「ここで問題になるのは、ARMの64ビットアーキテクチャが完璧に機能するかどうかではない。ARMのパートナー企業が、ユーザーが求める性能や電力効率、信頼性などを備えた、競争力のある製品を提供できるかどうかである」という。

 Kanter氏は、「NVIDIAは、同社のGPU(Graphics Processing Unit)に関して、明らかにHPC(High Performance Computing)市場をターゲットとした戦略を立てている。しかし、この市場は、チップ設計メーカーを経済的にサポートしていける市場ではない。SGI(Silicon Graphics International)の経営がうまくいっていないことが物語っている」と述べる。

 また同氏は、この他のデメリットとして、ARMのパートナー企業の大半がファブレスであるため、カスタム設計に関する専門知識が不十分であるという点を挙げる。専業メーカーであるAMDやIntel、Oracleなどにはとうてい及ばない。

 さらに同氏は、「統合型システムやプラットフォームに関しても、検証技術や検査能力を含め、必要な専門技術が足りない。一般的に、GPUなどの製品寿命が約1年と短い製品は、バグがあっても回避策をとることができるため、設計の精密さに対する要求は比較的高くはない。だが、サーバの場合は精密さに対する妥協は許されない」と述べる。

 Muller氏はARM TechCon 2011の基調講演の中で、「システムの複雑化が進み、メモリの使用量が増大していることから、ヘテロジニアスコンピューテイングやシステム分割、デバイスのエネルギー効率などに関する問題の解決を求める声が高まっている。現在はあらゆるシステムにエネルギー上の制約があり、ヘテロジニアスなソリューションを構築することこそがすべてだ」と語った。

【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】

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