NIが発表したモジュール型RF計測器の新製品は、スタンドアロン型RF計測器を複数台組み合わせて構築するのと同等の機能を備えており、「小型かつ高速で低価格」をうたう。加えて、内蔵FPGAをユーザーが同社のグラフィカル開発ツールを使って手元で書き換え、任意の計測機能を実現できる仕組みも用意した。
「26年前、当社は計測を“再定義”した。そして今もう一度、その“再定義”を果たす」――。National Instruments(NI)は、本社を置く米国テキサス州オースチンで2012年8月6〜9日に開催したカンファレンス兼展示会「NIWeek 2012」において、独自の新コンセプトに基づく高周波(RF)計測器を発表した。
同社の新コンセプトとは、RF計測器のさまざまな機能をユーザーが手元で任意に設計できるというものだ。一般的なRF計測器であれば計測器のメーカーが開発して実装するようなファームウェアレベルの低位階層から、アプリケーションソフトウェアレベルの高位階層に至るまで、同社の計測/制御アプリケーション用グラフィカル開発ツール「LabVIEW」を使ってユーザーが自分自身で作り込める。同社はこのコンセプトを「Software Designed Instrumentation」と呼ぶ。
同社は今から26年前の1986年にLabVIEWの初版を発売。計測アプリケーションをグラフィカルなプログラミング言語で構築するという新コンセプトを提唱し、当時それを“計測の再定義”と位置付けた。そして今回新たに打ち出したSoftware Designed Instrumentationも、同様に“計測の再定義”に相当するインパクトがあると同社は主張する。
今回、新コンセプトと併せて発表した第1弾の製品は、RFのパワーアンプや無線通信機能を統合したシステムLSIなど、さまざまなRFデバイスのテストに使える計測器「NI PXIe-5644R」である。PXI/PXIe規格のバスインタフェースに対応したモジュール型計測器であり、同規格に対応するシャーシおよびコントローラと組み合わせて使う。
この新製品は、大きく2つのRF計測機能を単一のモジュールに統合している。具体的には、(1)RFのデジタル変調信号を出力する機能と、(2)RFのデジタル変調信号を受けてスペクトラム解析や変調解析を行う機能である。これら2つの機能は従来、モジュール型計測器メーカーであるNIや、スタンドアロン型計測器(単体で動作する単機能の箱型計測器)を手掛けるメーカー各社が、それぞれ単体の計測器(もしくは計測モジュール)として提供してきたものだ。つまりこれまでは、ベクトル信号発生器(トランスミッタ)とベクトル信号アナライザ(レシーバ)という2つの別個の計測器に分かれていた。これら2つをまとめたことから、NIはこの新製品を「ベクトル信号トランシーバ(Vector Signal Transceiver:VST)」と呼ぶ。
このVSTの基本的な特性は以下の通り。RFの入力(トランスミッタ)と出力(レシーバ)はそれぞれ1チャネルずつを搭載した。RF入出力の周波数範囲は65M〜6GHzで、帯域幅は80MHzを確保している。シャーシのサイズによって、この新製品を単一シャーシに最大5個まで内蔵でき、MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術に対応したテストも可能だ。これらの特性を備えることから、無線LANの最新規格「IEEE 802.11ac」や、携帯電話の最新規格「LTE(Long Term Evolution)などに対応する各種デバイスのテストに使えるという。
最大出力電力は10dBm、最大入力電力は30dBm。3次相互変調歪み(TOI)は19dBmを確保した。出力ノイズフロアは−168dBm/Hz(−30dBm時)、スプリアスフリーダイナミックレンジ(SFDR)は−55dBcである。
価格については、ベクトル信号トランシーバ自体が4万5000米ドル(国内標準価格は480万2000円)で、シャーシとコントローラを組み合わせた標準的な構成でハードウェアの総額は6万米ドル程度になるという。実際に利用するにはこれらのハードウェアに加えてLabVIEWが必要になる他、IEEE 802.11acなど各種規格に対応するテストを実施するにはNIが提供する解析ソフトウェアパッケージを購入する必要がある。「AgilentのMXGシリーズとPXAシリーズで同等のRF性能の機種を選ぶと、価格は合計で13万米ドル程度になる。ベクトル信号トランシーバなら、全てのハードウェアにソフトウェアを加えても、計測システム全体の総額を大幅に低く抑えることが可能だ」(NIでDirector, Product Marketing for Testを務めるCharles Schroeder氏)。
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