病院向け照明システム「スマートホスピタルライティングシステム」は、LED照明器具の光色を制御することで、入院患者が室内にいても「日の出」や「日中」、「夕方」などの昼夜変化を疑似体感できる。その変化を再現することによって、入院患者が生体リズムを維持することができれば、治癒力が高まり、治療の一助となる可能性もあるという。
戸田建設、村田製作所およびウシオライティングの3社は2013年2月、病院向け照明システム「スマートホスピタルライティングシステム」を共同開発し、実証実験を始めたと発表した。室内でLED照明器具の光色を制御することで、入院患者は室外に出なくても「朝」や「昼」、「夕方」など生活サイクルに合わせた光環境を体感することができる。
太陽の下では活動的になり、暖炉の光に囲まれると安らぎを感じるなど、光と人体には深い関係がある。例えば、昼光色など色温度が高い環境では集中力が高まり、電球色など色温度が低い環境だとリラックスできると言われている。共同開発した照明システムは、このような光環境を柔軟に作り出すことができる。
今回の共同開発では、村田製作所が得意とする無線通信技術と、ウシオライティングが強みとする色温度に注目した光色制御技術、およびそれを用いたLED照明器具などを活用する。医療・福祉施設の建設を数多く手掛けてきた戸田建設がシステム全体をまとめた。さらに、千葉工業大学工学部建築都市環境学科の准教授を務める望月悦子氏がアドバイザーとして共同研究に参画し、サーカディアンリズム(日の出とともに目覚め、日没とともに眠るという、人が本来持つ1日のリズム)について、最適な生体リズム検証を行っていく予定だ。
戸田建設で執行役員を務める稲垣秀雄氏は、「スマートホスピタルライティングシステムを病院で活用することにより、入院患者がサーカディアンリズムを維持することができれば、本来人間が備えている治癒力が高まり、治療の一助となる可能性を秘めている」と語る。また、望月氏も「照明を変化させることで睡眠のリズムが整い、室内にいても心理的にリラックスできる効果がある」と述べ、健康を増進するための光環境を積極的に活用していくことが重要になることを強調した。
スマートホスピタルライティングシステムの構成は、大きく「LED照明器具」、「照明制御用Gateway装置」および「電池レス無線スイッチ」に分かれる。実験に用いたLED照明器具には昼光色(色温度650K[ケルビン])のLED光源が128個、電球色(同3000K)のLED光源が128個と、合計で256個のLED光源が内蔵されている。照明制御用Gateway装置から「ZigBee」モジュールを介してLED光源を色温度制御し、5つのシーンに応じて発光させる。このシステムでは、昼光色LED光源と電球色LED光源を一括して制御することができるため、自然な光色制御が可能である。
今回の実験では、色温度が6500Kの「日の出」から、同5000Kの「日中」、3000Kの「夕方(日没)」および「夜間(就寝前)」、「深夜(消灯)」と5つのパターンで各シーンを再現することができる。このときの消費電力は設定状況にもよって異なるが、おおよそ日の出シーンで80W、日中シーンで40W、夕方シーンで20〜25Wである。
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