Tgは、電子の濃度が低い1020cm-3以下で約830℃となるが、0.2×1021cm-3になると770℃、1021cm-3に高めると725℃まで低下する。1021cm-3の電子濃度は、このガラスを構成している酸素イオン(O2-)の3%を電子に置き換えた濃度に相当するという。
電子を含まないxCaO・(1−x)Al2O3(酸化カルシウムと酸化アルミニウムとの2成分系)の普通ガラスでは、xの部分を0.55〜0.75まで変更してガラスの網目構造のつながりを大幅に変えても、Tgの変化幅は65℃となった。これに対して、今回作製した電子化ガラスは、わずか3%の酸素イオンを電子に置き換えただけで、これまでにない低Tgのガラスを得ることができたという。
続いて研究グループは、このガラスの構造とガラス転移について、第一原理分子動力学法を用いてシミュレーションを行った。計算は2000K付近(1727℃)で結晶を融解させ、そこから100K(−173℃)まで急冷。その結果、試料の比熱がピークとなるガラス転移点は、電子化物ガラスで約1150K(877℃)、電子アニオンを含まないガラスで約1250K(977℃)となった。電子アニオンが存在すると低温側に約100℃もずれることが分かった。このデータは実験で観察したTgの差と同じである。構成原子の平均原子速度の温度変化をみると、Alは高温で動きが遅くなる。これに対して酸素とカルシウムは、1300〜1100Kになると急に低下することが分かった。この温度はTgに相当し、電子化物ガラスの方が低い温度になった。
電子アニオンなしカルシウムアルミン酸ガラス(C12A7:O2-、化学組成はCa24Al28O64(e)4)と、電子化物ガラス(C12A7:e-)の第一原理分子動力学計算による、融体からの急冷過程での比熱(a)と構成原子の平均原子速度(b)を示した図 出典:東京工業大学他ガラスの物性は、網目を構成する成分(NWF)とそれを切断する成分(NWM)の比率で決まる。通常のNWMは、イオン性結合を形成し網目構造を切断することでTgを下げる。これに対して電子化ガラスは、電子アニオンがイオンよりも動きやすいため、局所的に温度が高い状態になっており、より低温にならないと系全体の構造が凍結されるガラス転移が生じないと理解できるという。
C12A7:e-は、大面積で透明な薄膜を比較的容易に作製することが可能である。研究グループは、有機EL用の電子注入材料などとしての応用に期待できるとみている。
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