名古屋大学の伊丹健一郎教授らによる研究グループは、カーボンナノチューブに類似した筒状の新しい有機ナノチューブを簡便に合成する方法を開発した。
名古屋大学大学院理学研究科、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の伊丹健一郎教授、伊藤英人講師、前田果歩氏(大学院生)らを中心とする名古屋大学の研究グループは2016年8月、新しい有機ナノチューブを簡便に合成する方法を開発したと発表した。研究成果を用いると、有機分子からなる、カーボンナノチューブに類似した筒状の構造体「有機ナノチューブ」を、簡単な有機化合物からわずか2段階で合成することができるという。
有機ナノチューブ(ONT:Organic Nanotube)は、有機分子を基本骨格として筒状に組み合わせて作られる有機ナノ材料である。カーボンナノチューブとは異なる特性を示すナノチューブ構造体として注目を集めている。これまでに有機ナノチューブは、いくつかの報告事例がある。しかし、これらは結合力の弱い相互作用でチューブ構造を維持しており、構造的に脆弱であったり合成が難しかったり、実用化するには課題があった。
そこで研究グループは、小さな有機分子から、らせん高分子を合成し、らせん高分子の骨格内で光架橋反応を進行させることで、簡便に「共有結合性有機ナノチューブ(covalent ONT)」を合成する方法を考案した。架橋共有結合を有するcovalent ONTを容易に合成することができれば、より剛直で堅牢なONTを作製することが可能となる。導電性や光学特性などの改善にもつながるという。
開発した「helix-to-tube法」と呼ぶこの合成手法では、らせん高分子の合成と光架橋反応のわずか2段階で、covalent ONTを合成することができるという。まず、らせん高分子として2つのアセチレン骨格がベンゼン環のメタ位でつながった高分子「ポリメタフェニレンジエチニレン(poly-PDE)」を設計、合成した。
poly-PDEの側鎖には水素結合によって、らせん形成を促すアミド基や有機溶媒への溶解性を向上させるオリゴエチレングリコール鎖、キラルらせん形成を誘起する不斉炭素中心が導入されている。研究グループは、各種分光学的測定法や原子間力顕微鏡、広角X線回折測定などで、poly-PDEがクロロホルム中でらせん構造を形成することを確認した。
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