図3はAE-CLOUD2とIoT nodeそれぞれが搭載する機能チップのメーカー本拠地別分布および、自社製チップ比率をグラフ化したものである。奇しくも2製品ともに機能チップは17個。ルネサスは17個のうち2個が自社製。STは17個のうち12個が自社製で占めた。
「キットとは何か?」「プラットフォームとは何か?」を端的な数字で表すことはできない。しかし多くのシステムはマイコン処理の手足になるセンサーや通信を持つ。IoT時代になって、それはますます加速している。
マイコンはあくまでも処理チップ。それだけで完結するわけではないからだ。そこにセンサーなりデータなりが付加されて初めて意味を成す。ワンチップマイコンという言葉があるが、ワンチップでシステムが完結するのではなく、従来から最低でもディスプレイやLED、キーボードといった外部部品が必要であった。それがIoTの時代ではセンサーや通信が必須になってきたわけだ。
図4は、IoT時代のマイコンの四方を取り巻く“東西南北”の様子である。
従来はディスプレイ、キーボードなどであったが、IoT時代は、ANALOG(アナログ)、NETWORK(I2CやSPIなどの有線通信だけでなく各種無線も!)、POWER(電源制御)、SENSOR(センサー)で東西南北を成す。当然、東南、南西、北東、北西など複数の方位を固める組み合わせデバイスもある。いずれにしてもこれら4つの方角に手足を持つのがマイコンのあるべき姿の一つだ。ルネサスはマイコンの四方を固めるために、IntersilやIDTの買収を進めている。
マイコンそのものの性能勝負は依然続いているが、システム全体から見れば部分最適化になってしまっている場合は多い。マイコン以外のところにボトルネックがあって性能が出ない、消費電力が下がらない……。いくらマイコンだけが性能が高くても、何の解決にもならない……。これがIoT時代のシステムの在り方である。
IntersilやIDTの買収によって、ルネサス製マイコンの東西南北がバランスよく広がっていくかを今後とも注視したい。同時に、海外のボードを単に並べるだけでなく、ソリューションカンパニーとしての、最終製品に限りなく近い、ルネサスの半完成品をぜひ見たいものである!!
ネット上にはルネサスの買収をネガティブに捉える意見もある。しかし元ルネサスの一員として、この買収には否定できない部分も多い。それはマイコンの東西南北を持つことの重要さを在籍当時から強く感じていたからだ。次の10年を見据えたマイコンの東西南北を広く形成できるかに関わっている。
今後とも各社の開発評価キット、コンピュータボードも観察し、マイコン単体性能のみならず東西南北の差分を明確にしていく予定だ。
⇒「この10年で起こったこと、次の10年で起こること」連載バックナンバーは、こちら
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.