さて、ここまで述べてきたことを、ベンチャーエコシステムあるいは大企業も含めてイノベーションエコシステムという観点で総括すると、「ネットバブルは崩壊したが、ベンチャー企業のエグジットの数は減っておらず、ベンチャー起業家は数年たつと次のベンチャーを立ち上げる機会ができる。一方でベンチャーを買収することで、大企業は、これを新規事業開発に役立てることができる。つまり、ネットバブル崩壊後も、人・お金・技術は回り続けている」ということである。
日本におけるベンチャーエコシステムは、これまで数回にわたり議論してきたように、いくつかの課題を今でも抱えている。また、これも今まで散々取り上げてきた通り、大企業も思うように事業拡大や新規事業の創成ができていない。
日本のこうした状況を見た時に、シリコンバレーのエコシステムがとても参考になるのではないかと思ったのだ。日本でも、大企業が率先してベンチャー企業と提携したり、ベンチャー企業を買収したりすれば、日本のエコシステムは、より効率的になるのではないかーー。そう考えたのである。
ここまで、ベンチャー企業、ベンチャーキャピタル、資本市場を主役としたエコシステムを「ベンチャーエコシステム」と呼んで議論してきたが、これらに(新事業の創成を常に考えるべき)大企業も加えて、より広く「イノベーションエコシステム」と呼ぶことにしよう。
日本におけるベンチャー投資資金の回収を見ると、セカンダリーファンドや取引先への売却やベンチャー企業の経営者による買戻しというのがかなりあり、これはこれで大きな課題ではある。ただ、ベンチャー企業のエグジットという観点で見ると今でもIPOに偏っていて、既存企業が戦略的に買収するというケースは非常に少ない(図2)。
だが、ベンチャー企業もベンチャーキャピタルも、東証マザーズへの上場だけがエグジットの方法ではないということを考えるべきだ。
もちろん、起業家は最初から早く大企業に売り抜けることだけを目標に小手先のお化粧をすべきだとは思わない。やはり、起業家には、自分が開発した技術をできるだけ広く世の中の人に使ってもらい、社会のために役立つ、という気高い理想は掲げてほしい。
ただ、結果的に大企業から買収の申し入れがあり、もしそれが、理想の実現への近道になるのなら、買収も含めた連携も、ぜひ進めてもらいたいと個人的には思っている。そして、それをうまく進めるために、ベンチャー企業は、世界に問えるぐらいのイノベーションで大企業と渡り合う方法を身に着ける必要がある。
一方で大企業は、ベンチャー企業を“上から目線”で見るのではなく、対等の立場で付き合うことが必要だろう。これまで、大企業のベンチャー企業との付き合い方といえば、常に上から目線で欲しい情報を要求し、それが手に入るとベンチャーを切り捨てる……というケースもあったのだ。ベンチャー企業が提携を望むが故に情報を差し出すと、情報を手にした大企業が「ハイさようなら、あとはこちらでできます」と切り捨てる、という酷なケースを、筆者も実際に何度も目にした。
理想を言えば、大企業とベンチャー企業が対等な目線で戦略的な提携について議論し、大企業がもっと積極的にベンチャー企業を買収するという構図ができてほしい。これによって、おカネと人、技術、情報が回り続け、日本のイノベーションエコシステムは上向きのスパイラルで進化できるのではないか(大企業の立場に立った議論は、第36回以降)。
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