東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授と筑波大学数理物質系の所裕子教授らによる研究グループは、光スイッチング効果を示す超イオン伝導体を発見した。
東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授と筑波大学数理物質系の所裕子教授らによる研究グループは2020年3月、光スイッチング効果を示す超イオン伝導体を発見したと発表した。この物質の性質を用い将来は、電池のオンオフを光で行うことが可能になるという。
光スイッチング効果を示す超イオン伝導性極性結晶は、セシウム‐鉄‐モリブデンシアノ錯体と呼ばれる青色の物質である。結晶構造を解析した結果、セシウムイオンと鉄‐モリブデンシアノ骨格の重心がずれることによって、自発分極を有する極性結晶であることが分かった。また、ネットワークを構築するニトロシル(NO)基の酸素原子と水分子からなる1次元の水素結合ネットワークが存在していることも判明した。
イオン伝導性を測定した。この結果、318K(45℃)で相対湿度100%の時に、イオン伝導度は4.4×10-3Scm-1を示すなど、超イオン伝導体であることが分かった。これは水素結合ネットワークを介し、バケツリレーのようにプロトン(H+)が運ばれる仕組みにより生じているという。
セシウム‐鉄‐モリブデンシアノ錯体について、光照射実験も行った。湿度が管理された容器内で、波長532nmの光を錯体に照射した。この結果、イオン伝導度はこれまでの1.3×10-3Scm-1から、6.3×10-5Scm-1へと2桁も低下した。光を照射した後、一定の時間が経過すると超イオン伝導は回復したという。
この光スイッチング現象は、モリブデンイオンとニトロシル基の結合角度が、光照射で可逆的に変化することによるものとみている。具体的には結合角度が変化して水素結合ネットワークが一部切断され、プロトン伝導度が低下したからだという。
実験を行った物質は、超イオン伝導性と極性結晶構造が共存する材料である。通常はこれらが共存しないという。そこで研究グループは、第二高調波発生(SHG)の検討を行った。試料に1040nmのレーザーを照射したところ、波長520nmの光が出力されることを確認した。また、光でイオン伝導度がスイッチングできる性質を応用すると、将来は光で電池のオンオフ制御が可能になるとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.