産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは、近赤外光を照射してプラスチック(ポリプロピレン)の劣化状態を診断する技術を開発した。自動車部品や建築材料などに利用されているポリプロピレンの状態を非破壊で検査することが可能となる。
産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは2020年7月、近赤外光を照射してプラスチック(ポリプロピレン)の劣化状態を診断する技術を開発したと発表した。自動車部品や建築材料などに利用されているポリプロピレンの状態を非破壊で検査することが可能となる。
プラスチック製品の品質を評価するには、機械試験を行うのが一般的だ。これは、被測定物を引っ張り変形させるために加えた力を計測する方法である。このため、製品に組み込まれたプラスチック部品の品質や劣化状態を非破壊で診断することはできなかったという。
ポリプロピレン部品の機械特性を示す指標として、「破断伸び」が用いられる。試料が破断されるまでの引っ張り伸び率のことで、劣化が進むと破断伸びの値が減少するという。今回の実験では、事前に劣化処理を行い、劣化の程度が異なるポリプロピレン試料を用意した。
この試料に波長が1600〜2000nmの近赤外光を照射し、透過した近赤外光をセンサーで検出して近赤外スペクトルを計測。この時の測定時間は6秒である。今回用いた検査装置は、透過光に加え、反射光でも測定することが可能だという。試料の厚みや形状によって測定方法を選ぶことができる。
ポリプロピレンは劣化が進むと近赤外光の吸収特性が変化する。このため、近赤外スペクトルの形状変化から、劣化を推定することができるという。具体的には、各波長における光吸収の大きさに回帰係数を掛けて、これらを足し合わせることで破断伸びを算出できる。
今回は、機械学習を活用して回帰係数を効率よく導き出した。学習データから導き出した回帰係数を用いて算出したテストデータの破断伸びと、機械試験で測定した破断伸びはほぼ一致することを確認した。また、回帰係数は、ポリプロピレンの固体構造と近赤外光吸収の変化が、直接的に相関していることが分かった。
今回開発した技術は、ポリプロピレンと似た結晶構造を持つプラスチックであれば、劣化診断に適用できる可能性がある。ただ、多量の添加剤を含んだポリプロピレンや、異なるプラスチックの劣化診断を行うには、診断する試料の近赤外スペクトルや破断伸びなど学習用データをあらためて測定し、機械学習を行う必要があるという。
今回の研究成果は、産総研機能化学研究部門化学材料評価グループの新澤英之主任研究員や水門潤治研究グループ長、古賀舞都研究員、高分子化学グループの萩原英昭研究グループ長、渡邉亮太主任研究員、山根祥吾主任研究員らによるものである。
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