冒頭の日経新聞の記事によれば、「TSMCが車載半導体の増産要請に応じたことで、同社が米国政府や自動車業界から感謝された」としている。だが、TSMCの車載用途向け売上高は2019年10〜12月期実績で全体の5%にすぎなかった。それ以降も自動車向け売上高比率は4%、4%、4%と続き、2020年10〜12月期はわずか3%にとどまっている(下図参照)。記事には「2020年秋から車載向けの受注が急増したが供給が追い付いていない」とあるが、正確に言えば「減らしたアロケーションを元に戻せず、需給ギャップが拡大した」ということだ。同社の主要アプリケーションはあくまでもスマホや高速プロセッサである。要請されれば「車載も頑張ります」とは言うだろうが、売上高比率を3%から4%に戻す程度がせいぜいだろう。車載に関してTSMCに過度の期待を寄せるのはいかがなものだろうか。
そもそもTSMCは、7nm/5nmといった最先端プロセスで業界をリードしており、この領域で売り上げを伸ばしている(下図参照)。車載マイコンに多用される40nmプロセス製造ラインも持っているが、このプロセス世代はUMCやSMICなど他のファウンドリーも製造できる。そのため、TSMCにとって付加価値を主張しやすい領域とはいえない。実際にTSMCの40/45nmプロセスの売上高は、徐々にではあるが減少傾向にある。慢性的な生産能力不足を解消させるためには、TSMCに頼るよりも、他のファウンドリーを活用することも有効な手段だろう。
またこの記事によれば、ルネサスがTSMCに生産委託していた製品の一部を自社の国内工場生産に切り替えた、としている。この切り替えは一時的な措置なのか、長期にわたる自社生産への回帰なのか、社内で検討されることになるのだろう。しかし、これを「有事の供給リスク」という一言で片付けてしまうと、各企業や地域が抱えている事情が覆い隠されてしまう。ここからは、半導体のあるべき生産戦略について、私見を述べさせていただく。
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