TSMCが窒化ガリウム(GaN)ファウンドリー事業から撤退するニュースは大きな話題となった。撤退して後の「リソースの余力」を、TSMCはどこに振り分けるのか。
Navitas SemiconductorがPSMCとの戦略的提携を発表したことを受け、TSMCが窒化ガリウム(GaN)ファウンドリー事業から撤退することが明らかになり、非常に多くの臆測が飛び交っている。
Taipei Times紙は、TSMCが2027年までにGaNファウンドリーサービスを終了すると報じ、この世界最大の半導体製造請負サービス企業が撤退する要因となった、“市場ダイナミクスの転換”について言及している。
“市場ダイナミクスの転換”とは、GaNを使用した製造コストが高いために利益が減少していることを示すのではないだろうか。これは、GaNがパワーエレクトロニクスに優れた効率性をもたらすにもかかわらず、その普及を妨げる要因の1つとして広く認識されている。
こうした懸念は、製造コストの削減を目的として、シリコン(Si)/炭化ケイ素(SiC)基板上でのGaN形成への移行がスムーズに進んでいても、根強く残っている。これが決定的な要因となった可能性もあるが、中国との競争が高まっているために戦略的ステップを踏んだのではないかとみる向きも多い。
中国政府は、「Big Fund」と呼ばれる「National Integrated Circuit Industry Investment Fund」の次のフェーズに約47億5000万米ドルを投資した。この投資は主に、中国半導体メーカーの生産能力拡大を目的としており、グローバルサプライチェーンに波紋が広がっている。
台湾の経済紙Commercial Timesが報じたところによると、中国本土で数多くの新しい工場が登場し、急激に供給過剰に陥ったために、6インチのSiC基板の価格がウエハー当たり500米ドル未満に下落したという。
その背景には、電気自動車(EV)市場からのウエハー需要が減少したということがある。これは、Wolfspeedが倒産した原因の1つでもある。またCommercial Timesの報道によると、中国は8インチSiC基板の量産段階に達していないにもかかわらず、国内のデフレスパイラルのために、8インチウエハーの価格も関連して下落しているという。SiC基板上でGaNをエピタキシャル成長させるにはコストが高い上、顧客からは価格下落への期待が高まっているが、それがデフレスパイラルの引き金になりかねないことなどから、GaN-on-SiCウエハーの将来的な収益性についてはまだ不安定な状態が続いている。
中国では、これまでの技術的な自給自足の追求と、それに続く研究開発への投資が、まさに今、実を結んでいる。中国・武漢のJFS Laboratoryの研究チームの研究者たちは2025年初めに、製造コストを40%削減できる、8インチのN極性GaN-on-Siウエハーを開発したと発表した。
このトポロジーは、他のいくつかの有望なトポロジーと同様に、まだ量産段階には達していないが、中国メーカーにとってアクセスしやすいことから、グローバルサプライチェーンに混乱を巻き起こす上でさらなる優位性を確保できるようになるだろう。
さらに、GaN市場において台頭している競合相手は、中国メーカーだけというわけではない。GaNのEVアプリケーションは低迷が続いているが、その成長への期待から、今も膨大な投資を引き付けている。
Infineon TechnologiesによるGaN Systemsの買収やPower IntegrationsによるOdyssey Semiconductorの買収など、ここ数年の間で注目を集めた買収はさておき、大手グローバルプレイヤーによる戦略的な動きや投資の波が、GaN市場の競争/イノベーションをさらに激化させている。
住友化学やサンケン電気などの日本メーカーは、コスト効率を考慮した6インチGaN-on-GaNウエハー技術の向上にまい進している。
サンケン電気は2025年3月、GaNエピタキシャルウエハーの生産に関する専門技術を高めるべく、パウデックの買収を発表した。また、NXP Semiconductorsやローム、三菱電機、Qorvo、STMicroelectronics、Texas Instruments、Efficient Power Conversion(EPC)などの他の大手グローバル企業も、チャンスをつかもうとGaNの研究開発や製品発表、パートナー提携などを強化していて、ますます競争を激化させている。
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