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「自動車のデジタルツイン」実現に向け歩みを進める半導体メーカー・NXPNXPジャパン マーケティング統括本部 副統括本部長 園田慎介氏

NXP Semiconductorsは、クラウド上のデジタルツインを使い日々、自動車がアップグレードされる「デジタルツイン・オートモーティブ」の実現に向けた半導体デバイス/ソリューション開発を積極的に進めている。デジタルツイン・オートモーティブで自動車はどのように変化し、NXP Semiconductorsはどのような半導体デバイス/ソリューションを提供していくのか。NXPジャパンでマーケティング統括本部 副統括本部長 兼 マーケティング部長を務める園田慎介氏に聞く。

» 2022年08月22日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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デジタルツインで自動車は日々アップグレードするように

 ――技術進化が著しい自動車ですが、今、注目されている技術トレンドはありますか。

園田慎介氏 自動運転、電動化、コネクテッドという3つの方向性で進化している自動車だが、この3つのメガトレンドによる革新は、この先、「デジタルツイン」を利用することでより一層クルマのパフォーマンス向上と新たな価値創造の実現に向かっていくのではないか、と考え、注目している。

 デジタルツインとは、クラウド/PC上にモノや人を仮想的に複製し、そのクラウド/PC上の仮想モデルを使って、シミュレーション/解析を行って、実世界のモノや人にフィードバックし、改善やより良い生活につなげるという考え方、仕組みだ。

 デジタルツインという言葉自体は10年ほど前から登場し、生産現場では生産性向上や生産設備の保守などで活用が進んでいる。ヘルスケア領域においても、疾患予防や治療/リハビリ計画立案などでデジタルツインが役立ちつつある。

 自動車においても、インダストリアル領域、ヘルスケア領域と同様に、デジタルツインが実現され、デジタルツインによって自動車はさらに進化することになるだろう。

 ――自動車領域におけるデジタルツインとはどのようなものなのでしょうか。

園田氏 自動車は“動くセンサー”といって良いほど、多くのセンサーを搭載している。それらセンサーからは大量のデータが生みだされ、自動車1台で1日当たり3Tバイトから4Tバイトものデータトランザクションが発生しているとされる。こうした大量のデータから有効なデータを選択・収集、加工処理し、OTA(Over The Air)を介してセキュアにクラウド伝送し、蓄積することで、仮想空間に現実空間と同じ双子の自動車、すなわち“デジタルツイン”を構成する。

 このデジタルツインを使って機械学習などの処理を行い、この自動車の将来を、さまざまな想定で解析、予想することができる。そしてそうした解析や予測を元に、自動車の制御アルゴリズムなどをより最適なものにし、同様にOTAを通じて現実空間にある自動車のソフトウェアを更新する。

デジタルツイン・オートモーティブにおけるデータの流れ[クリックで拡大] 出所:NXPジャパン

 分かりやすい例として、電気自動車(EV)のバッテリーマネジメントが挙げられる。バッテリーの状態をクラウドに蓄積し、そのデータを基によりそのバッテリーの寿命が延びるよう充放電アルゴリズムを計算し直し、自動車のバッテリーマネジメント制御ソフトウェアを最適化し、更新するというものだ。

 これまで自動車は、時間の経過に対し劣化の方向にあり改善は難しいとされていたが、デジタルツイン・オートモーティブが実現されれば、定期的にアップグレードされ、機能の改善や進化が可能になる。言い換えれば、ソフトウェアで自動車の機能が定義される「Software Defined Vehicle」(SDV)が実現し、自動車をより進化させると言える。

E/Eアーキテクチャ刷新でデジタルツインが可能に

 ――自動車の在り方が大きく変わってくるのですね。こうした変化はいつ頃から起こるのでしょうか。

園田氏 すでにデジタルツインの実現に向けて変化は始まっていると考えている。

 2019年時点、世界で出荷された自動車のうち4400万台がインターネットとつながるコネクテッド対応を済ませていると言われている。

 さらに自動車の電子/電気(E/E)アーキテクチャの刷新も着実に進んでおり、デジタルツインの実現に向け基盤は整いつつある。

 これまでのE/Eアーキテクチャは、ECUが次々と追加されたこともあり、ECUそれぞれが分散的に処理を行い、ECU間の通信も複雑で、秩序立っていなかった。このようにECUが階層分けされず、無整理な「フラット構造」と呼べるこれまでのE/Eアーキテクチャであれば、複雑すぎて、安全性、信頼性の面で、ソフトウェアを日々、更新するということは不可能だった。

 ただ昨今は、ECUを機能ごとに論理的に整理しながら、各論理ドメインの一定の処理を「ドメインコントローラー」と呼ばれるECUに集約して行う「ドメインアーキテクチャ」への移行が進んでいる。このドメインアーキテクチャであれば、機能、処理が整理、統合されているので、ソフトウェアの更新も容易になる。

電子/電気(E/E)アーキテクチャの変遷。従来のフラット構造なアーキテクチャからECUを機能ごとに論理的に整理したドメインアーキテクチャへの移行が進みつつある。また、ドメインアーキテクチャの次段階として、ECUの物理的な位置(ゾーン)ごとに論理的にドメインを整理した「ゾーンアーキテクチャ」への移行も検討されている[クリックで拡大] 出所:NXPジャパン

 ――自動車におけるデジタルツインの実現へ向けたNXP Semiconductorsの取り組みを教えてください。

園田氏 NXP Semiconductorsでは、デジタルツインの実現の前提になる、ドメインアーキテクチャや、その先のゾーンアーキテクチャを見据えた半導体製品を開発、製品化している。そして、それらの製品をベースに、ドメインアーキテクチャにおけるドメインコントローラーに相当するECUを模したリファレンスデザインを開発、提供している。具体的には、ネットワークゲートウェイ向けとして「GoldBox」、自動運転/ADAS領域のドメインコントローラーECU向けとして「BlueBox」、動力制御領域向けの「GreenBox」という3つのリファレンスデザインだ。

デジタルツインの実現に向けNXP Semiconductorsが提供する製品/サービス[クリックで拡大] 出所:NXPジャパン

 この3つのリファレンスデザインに各種センサーやECUを追加することで、ドメインないしゾーンアーキテクチャを用いた将来の自動車を構築し、テスト、評価できる。この環境をクラウドに接続することで、自動車をアップデートすることが可能なデジタルツインの開発にも着手できるようになっている。

 半導体メーカーであるNXP Semiconductorsは、自動車に搭載する半導体、ソフトウェアの提供になるが、デジタルツインの実現に不可欠なクラウド環境についても、アマゾン ウェブ サービス(AWS)やClouderaといった大手クラウドベンダーと連携、協業して総合的なサポートを提供できる体制を整えている。

新E/Eアーキテクチャ、デジタルツインに向けた製品がそろう

 ――3つのリファレンスデザインに搭載しているデバイスについてお聞かせください。

園田氏 GoldBox、BlueBox、GreenBoxの中核を担うデバイスは、新しいE/Eアーキテクチャを見据えて製品化しているMCU/MPU製品「S32ファミリ」になる。S32ファミリは、全ての製品でプロセッサコアにArm Cortexシリーズを採用しつつ、各ドメイン、各ECUで必要な基本機能ブロック部分を共通化するなどし、ソフトウェアの流用性が高いことが特長になっている。

 ネットワークゲートウェイ向けのGoldBoxおよび、自動運転/ADAS領域向けのBlueBoxに搭載している「S32G2シリーズ」は、16nmプロセスで製造する最新の車載ネットワークプロセッサ。Arm Cortex-A53コアを2ペア4個、同-M7コアを3ペア6個搭載し、ロックステップ動作が行える高い信頼性と処理能力を両立している。また、20チャネルのCAN/CAN FDを始めLIN、FlexRayといった車載LAN、4チャネルのギガビットイーサネット、PCI Express Gen3といった豊富なネットワークに対応するネットワークアクセラレータや各種暗号化エンジンを搭載するプロセッサになっている。

「S32G2シリーズ」の概要[クリックで拡大] 出所:NXPジャパン

 さらに現在、Arm Cortex-A53コアを4ペア8個、同-M7コアを4ペア8個と性能をさらに高めた「S32G3」のサンプル出荷も開始している。

 ――車両制御向けのデバイスについてもご紹介ください。

園田氏 このほど、車両制御を主なターゲットにした「S32Zファミリ」「S32Eファミリ」と2つの製品群を発表した。いずれもS32G2シリーズと同様に16nmプロセスを採用し、S32Zファミリの「S32Z2シリーズ」では、Arm Cortex-R52コアを8個の他、Arm Cortex-M33コアを2個搭載するなど高集積を実現している。なお、Arm Cortex-M33コア2個はロックステップ動作対応の独立したセーフティコアで、万が一Arm Cortex-R52コアの1つに不具合が生じても、不具合を検知し別のコアで処理を継続するといったオペレーションが可能で、車両制御領域のドメインコントローラーやゾーンコントローラに向いた製品になっている。

 また、S32Zファミリは、常にソフトウェアがアップグレートされるデジタルツインの時代を見据えて、ハードウェア仮想化による複数の分離されたバーチャルマシン(VM)をサポートしている点も大きな特長だ。具体的には、ハイパーバイザーを使用し8個のArm Cortex-R52コアのリソースを自在にソフトウェアで振り分け独立した複数のVMを構成できるもの。これにより、ドメインコントローラーとバッテリー監視用ECUの統合など、複数ECUの統合を容易に行えるようになる。ハードウェアに依存せず、ECUごとの処理リソースを手軽に変更できる「ソフトウェア・デファイン」が実現可能なMCU/MPUになっている。

 S32EファミリのS32E2シリーズは、S32Z2シリーズに512kバイトのデータフラッシュメモリやSAR(逐次比較型)A-Dコンバーター、アドバンストタイマー、5VアナログI/Oなどモーターなどアクチュエータを制御するペリフェラルを追加した製品。ハードウェアとしてもECUを統合できる構成になっている。

「S32Z2シリーズ」「S32E2シリーズ」の概要[クリックで拡大] 出所:NXPジャパン

 なお、MCU/MPU製品については今後も、高性能化、高集積化を進めていく方針で、(大手半導体受託製造専門企業である)TSMCと協業し、同社の5nmプロセス技術を使用した製品の開発に着手している。

 ――デジタルツインの実現にはセンサーも重要になります。

園田氏 NXP Semiconductorsとしてはセンサー、センサー関連デバイスについても開発を継続していく。例えば、車載センサーの中心的な存在になっているレーダーについては、NXPとして第6世代に相当するレーダートランシーバをリリースした。NXPは、それまで一般的だったガリウムヒ素などの化合物半導体を用いず、RFCMOSによるレーダートランシーバをいち早く製品化し、新世代レーダートランシーバはRFCMOSとして早くも第3世代目になり、短距離から長距離までを高精度で検知できるよう性能向上を実現している。デジタルツインの実現に向けては、より多くのデータを収集することが重要であり、センサーの高性能化に向けて開発を継続していく。


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提供:NXPジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2022年9月22日



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