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米中対立の中、見習うべき点が多い欧州企業の戦略大山聡の業界スコープ(69)(1/2 ページ)

中国のHuaweiが5G(第5世代移動通信)対応のスマートフォンを発売したことを受け、米国による対中の半導体規制がより強化される可能性が高い。今後、われわれおよび日系各社は、どのようなスタンスで臨むべきなのか、考えてみたいと思う。

» 2023年09月20日 11時30分 公開
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 最近、中国のHuaweiが5G(第5世代移動通信)対応のスマートフォン(以下、5Gスマホ)を発売した、というニュースが注目を集めている。米国が中国に対する半導体規制を強化したのは、Huaweiに5G対応製品を作らせない、特に同社の5G基地局を出荷させないことによって、西側諸国の通信インフラの安全性を確保することを目的としてきたはずである。にもかかわらず、Huaweiが5Gスマホを開発、製造したということは、5G基地局も製造できると見るべきだろう。今後の米中の動きには政治的な要因が多く関与しそうで、どんな展開になるか分からないが、米国の中国に対する規制がさらに強化される可能性が高い。こうしたことを前提に、われわれおよび、日系各社はどのようなスタンスで臨むべきなのか、考えてみたいと思う。

5G関連技術にアクセスさせないための規制だったが……

 米国による中国への規制が強化されたのは、2018年オーストラリアにおいて「自国の5G通信網がサイバー攻撃の対象となった場合、極めて無防備な状態になる」という報告がなされたことがきっかけだ。この報告が米国、英国、カナダ、ニュージーランドに共有された。米国政府は「Huaweiがスマホ市場でAppleを超える販売実績を持ち、基地局ではNokiaとトップシェア争いをする実績を持つこと」や「過去に米国でHuaweiがスパイ行為を働いたことがある」といった理由から、Huawei製品を購入しないよう同盟国に呼びかけた。

 2019年5月にはHuaweiを貿易上の取引制限リスト(Entity List)に掲載し、その後徐々に輸出制裁を強化していった。中国には「中華人民共和国国家情報法」という法律があり、「全ての中国企業は、国家が要請すればあらゆる情報提供の義務を負う」とされている。仮にHuaweiの5G基地局にバックドア(不正アクセスができるように作られる裏口)が仕込まれていた場合、Huawei製基地局が世界中に普及すると、あらゆる機密や情報が中国政府に筒抜けになる危険性がある、ということだ。Huaweiが中国軍部と密接な関係にあることを考えれば、Huaweiに5G基地局を作らせるわけにはいかない。そう考えた米国政府は「米国輸出管理改革法」を制定、輸出規制に抵触した企業は、米国公共事業への入札ができなくなる、という罰則を設けた。

 5G技術を実現するためには、最先端の半導体技術、製造プロセスでいえば5nm/7nmクラスが不可欠になる。

 HuaweiにはHiSiliconというファブレスの子会社があり、ここが4Gや5G対応のSoCを設計、TSMCに製造委託していた。そこで米国政府は、TSMCを2020年アリゾナに工場誘致した際、Huaweiグループからの最先端製造受託を禁じた。TSMCは2020年10月以降、HiSiliconへの出荷を完全にストップしている。TSMCからの供給が途絶えたHuaweiは、中国内で最もプロセス技術力の高いSMICに7nmプロセスの実現を求めたが、この動きを見越していた米国政府はSMICもEntity Listに掲載し、最先端プロセスの実現に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置などの輸出を禁じていた。ここまで規制を強化された中国は、最先端半導体技術の追求を諦めただろうか。どうやら諦めていなかったことが今回の5Gスマホの発売で明らかになった、と見てよいだろう。

 EUV露光装置を持たないSMICは、DUV(深紫外線)露光装置を駆使して7nmの実現を目指していたようだ。米国の調査会社では、EUVなら一度で済む露光工程をDUVで何度も繰り返す、いわゆるマルチパターニングで実現したのだろう、歩留まりは50%程度ではないか、などと分析結果を発表している。そのDUV露光装置も今では中国への出荷が禁じられているので、SMICで7nmプロセスが実現したといっても、製造効率や能力には大きな制限がかかっていると推察される。SMICのこのプロセスが全てHuawei向けに活用されたとして、5Gスマホを何台製造できるのか、基地局市場で再びシェア争いができるのか。米国政府では調査会社のサポートを得ながらさまざまな分析を行っていることだろう。

 いずれにしても、Huaweiに5G製品を作らせないことを目的に規制を強化してきた米国としては、「今までの規制では不十分だった」として、さらなる規制強化に踏み切る可能性が高いのではないだろうか。

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