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米中対立の中、見習うべき点が多い欧州企業の戦略大山聡の業界スコープ(69)(2/2 ページ)

» 2023年09月20日 11時30分 公開
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「邪魔をするな」米企業は規制に対して苦言

 米国の方針には常に賛否両論があるが、その是非はともかく、半導体の規制が最先端技術に限定されている点に改めて留意したい。これまでの規制のキッカケが「5G網」の安全保障に端を発している以上、ある意味では必然的な流れで現在に至っている。言い換えれば、最先端ではない半導体技術には規制がかからないことも自明なのだ。そもそも規制には経済面で大きなマイナスが発生する。米国政府の中国規制に対しては、Intel、NVIDIA、Qualcommなど米国大手半導体メーカーが「われわれのビジネスの邪魔をするな」と苦言を呈するなど、米国内でも波紋が広がっている。米国政府としても、規制を強化したり幅を広げたりすることは、極力避けたいはずなのだ。

 しかし日系企業の中には、この規制を拡大解釈して自社の中国戦略を見直そうとする事例が散見される。何を気にしているのか、何を勘違いされているのか、とても心配である。失礼を承知で申し上げれば、半導体の最先端技術に抵触できる日系企業は数えるほどしか存在しない。むしろ日本政府に対して、「われわれのビジネスの邪魔をするな」と苦言を呈する企業が出てきてほしいとすら思えてくる。米国政府に追従する日本政府に対して、何らかの交渉を持ち込む企業がいてもよいのではないだろうか。

もっと自己主張をしよう!

 昨今の中国政府は、東京電力福島第一原発の「処理水」を「汚染水」と表現し、日本からの水産物を全面的に輸入禁止にするなど、かなり極端な方針を貫いている。これは日本政府に対して「もっと中国に対して協力的になれ」という交渉材料に使おうとしているのではないか、などと筆者は勘繰っている。半導体であれ水産物であれ、輸出入の規制には経済面で大きなマイナスを伴うことは、中国政府も十分に分かっているはずだ。果たして何が目的なのか、筆者にはよく分からないが、今後の動向には注目しておきたい。

 その点、比較的分かりやすいのは欧州の政府や企業のスタンスである。最先端の半導体規制については、各国の政府も企業も米国の方針に従っている。オランダのASMLは世界で唯一、EUV露光装置を供給できる装置メーカーだが、米国政府に対して反旗を翻す様子はない。むしろ、最大ユーザーであるTSMCがアリゾナに最先端工場を建て、そこからの需要が増える方がプラスになる、と考えているのかもしれない。ASMLを除けば、最先端技術に抵触する半導体メーカー、装置メーカーはいないと言ってよいだろう。つまり、規制はあってもなくても関係ないことになる。

 一方、パワー半導体や車載半導体など、いわゆるレガシー分野においては、欧州企業は中国との連携を強化しているように見受けられる。クルマの電動化で協業したり、パワーデバイスの開発や製造で連携したりするなど、積極的な動きが見られるのだ。EV市場では欧州企業と中国企業が競合する面もあるが、EV普及に不可欠な充電設備の設置などでは、中国市場における欧州企業の動きが活性化している。

 世界経済が政治に振り回され、世界中の企業がいろいろな制約や悪影響を受けやすい状況下において、日系企業には「もっと自己主張をしよう」と呼びかけたい。特に欧州企業各社の方針や戦略には、日系企業が見習うべき点が多く見られるのではないだろうか。

連載「大山聡の業界スコープ」バックナンバー

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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