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自宅を売って夫婦で起業 CHIPS補助金獲得のMEMSメーカー主力市場は航空宇宙/防衛分野(1/2 ページ)

米国オレゴン州メドフォードを拠点とするMEMSファウンドリーであるRogue Valley Microdevicesが、米国の半導体産業支援策「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)に基づく補助金を獲得した。同社は米国にあるMEMSファウンドリー2社のうちの1社で、航空宇宙/防衛やバイオテクノロジー、情報通信分野で事業を展開している。

» 2024年08月27日 14時30分 公開
[Alan PattersonEE Times]

 米国オレゴン州メドフォードを拠点とするMEMSメーカーであるRogue Valley Microdevices(以下、Rogue Valley)は、米国の半導体産業支援策「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)に基づく補助金を獲得した。同社のCEO(最高経営責任者)を務めるJessica Gomez氏は、自宅を売却した資金でRogue Valleyを設立したという。同氏は米国EE Timesに、「Rogue Valleyの設立に必要だったものは、気概と2年制の学位、そして多くの決意だ」と語った。

米国商務省長官の Gina Raimondo氏(左)とRogue Valley Microdevices CEO(最高経営責任者)のJessica Gomez氏(右) 米国商務省長官の Gina Raimondo氏(左)とRogue Valley Microdevices CEO(最高経営責任者)のJessica Gomez氏(右)[クリックで拡大] 出所:Rogue Valley Microdevices

 2003年、Gomez氏と夫はカリフォルニア州の自宅を売却して得た18万米ドルでRogue Valleyを設立した。

 同氏は、「この資金が20%の株式となり、銀行から融資を受けることができた。地元の経済開発地区からも融資を受けた。残りはクレジットカードで5万米ドル程借金して賄った」と話した。

 2024年7月、米国商務省(DoC)はRogue Valleyと、CHIPS法に基づき最大670万米ドルの直接資金を提供する合意を結んだ。この投資は、フロリダ州パームベイにある同社のMEMS工場の支援を目的としたもので、これによってRogue Valleyの生産能力はほぼ3倍に増強されるという。

 Rogue Valleyは、米国に2つあるMEMSファウンドリーの1つだ。半導体業界の標準からすると小規模ではあるが、軍事およびバイオテクノロジーのサプライチェーンにおいて非常に大きな役割を果たしている。同社は、300mmウエハーの製造能力を提供する世界初のMEMSファウンドリーになることを目指している。

 業界団体SEMIのMEMS&センサー担当エグゼクティブディレクターを務めるTim Brosnihan氏はEE Timesに、「Rogue Valleyは、米国に残る数少ないMEMS専業ファウンドリーの1つで、CHIPS法の資金提供を受けるために選ばれた初のMEMS企業である。同社は米国の主要なMEMSファウンドリーと見なされていて、同社の事業拡大が米国の強固なMEMSサプライチェーンの確保に役立つとの考えから、補助金を獲得したのだろう」と語った。

 市場調査会社であるYole Intelligenceによると、MEMS市場は2023年に146億米ドル規模だったが、2029年には200億米ドルに成長すると予測されるという。

 米国にあるもう1つのMEMSファウンドリーはAtomicaである。また、BoschやBroadcom、STMicroelectronics、Qorvo、Texas Instrumentsなどの大手テクノロジー企業も、非中核事業としてMEMSを製造している。国家安全保障や5G(第5世代移動通信)、自動運転などのメガトレンドは、MEMSの成長をけん引している。

主力事業は航空宇宙/防衛分野

 創業当初、Rogue Valleyには薄膜蒸着用の非常に小さなクリーンルームがあった。最初の設備には、ウェットベンチ、酸化物および減圧化学気相成長(LPCVD)窒化物用の炉、半導体製造装置、基本的な計測機器などが含まれていた。同社は熱酸化とLPCVD窒化サービスを提供していた。

 Gomez氏は、「人を雇う余裕ができるまでの数年間、私たち2人だけで施設を建設し、運営していた。収益は全て会社に再投資した。2003〜2004年当時はMEMS製造はおろか、製造業に投資する人すら誰もいなかったからだ。ほとんどの工場は、台湾など海外に建設されていた」と語った。

 Rogue Valleyの利益が上がり始めたのは4年後だった。

 「たまには休みを取れるようになった。だがその後、2008年に大惨事に見舞われた。その結果、私たち自身を含め、ほとんど全員を解雇することになった。ビジネスモデルを再構築し、不況の現実に適応するのに4〜6カ月かかったが、かなり早く収支をプラスに戻すことができた」(Gomez氏)

 現在、Rogue Valleyの従業員は30人で、年間売上高は約1000万米ドルである。Gomez氏によると、フロリダの新工場の立ち上げによって、売上高は5000万米ドルに達する可能性があるという。

 フロリダ州での拡張によって、同社はフル稼働を続けてきたオレゴン州メドフォードの築20年の初代施設をアップグレードできるようになる。

 同氏は、「メドフォードの施設を新しくするためにやりたいことはたくさんあるが、アップグレードのために計画的なダウンタイムを取る余裕がないため、できない。リードタイムは必要以上に長くなっていて、顧客は不満を抱いている」と述べている。

 同社の事業は、約20%が航空宇宙/防衛で、バイオテクノロジーと情報通信がそれぞれ10%ずつ、残りはその他のさまざまな市場だという。Gomez氏は具体的な顧客名については明らかにしなかった。

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