今回は「2.2.1.1 低侵襲性医療:カプセル内視鏡の事例」の後半部分を説明する。カプセル内視鏡の課題や、適用範囲を広げるために必要な改良、次世代のカプセル内視鏡のイメージについて記載されている。
電子情報技術産業協会(JEITA)が2年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2024年度版 実装技術ロードマップ」(PDF形式電子書籍)を2024年6月に発行した。既に同年6月11日には、ロードマップの完成報告会を東京で開催している(本コラムの第462回で既報)。
本コラムではこのほど、ロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、前回の2022年度版に続いて今回の2024年度版も概要をご紹介できるようになった。この場を借りて同委員会の皆さまに深く感謝したい。
上記の経緯を経て、本コラムの第482回から、2024年度版のロードマップ概要をシリーズで紹介している。前回は第2章第2節第1項(2.2.1)「メディカル・ライフサイエンス市場向けデバイスの事例検討」から、「2.2.1.1 低侵襲性医療:カプセル内視鏡の事例」の主に前半部分をご説明した。今回は主に後半部分をご報告する。
カプセル内視鏡による消化管の検査が直面している喫緊の課題は、画像データの解析作業が医師にとって大きな負担となっていることだ。1回の検査で取得する画像データの枚数は5万枚〜6万枚に達する。画像の読影作業は、専門知識を有する医師が手作業で実施する。作業時間は短くても30分、長ければ2時間ほどかかる。医療施設と被験者にとってはコストと費用が高くつくことを意味する。被験者(患者)が負担する検査費用は10万円以上とされる。
また医師の手作業による読影は、見落としのリスクが避けられない。そこで画像の読影に特化した人工知能(AI)を活用することによって、読影作業の負担と見落としのリスクを減らすことが研究現場で試みられている。
カプセル内視鏡の課題はまだある。上部消化管(食道と胃、十二指腸)と大腸の内視鏡検査では、医師が撮影画像を注視しながらチューブを操作する。医師は検査中に特定部位(病変が疑われる箇所)の組織を採取することがごく普通に実施されている。採取した生体組織を詳しく検査することで、例えばポリープなのか、悪性腫瘍なのかが判明する。
現在のカプセル内視鏡は組織の採取機能を持たない。そもそも注目すべき部位が検査中は分からない。病変が疑われる部位が分からないため、カプセル内視鏡では漏れがないように一定の間隔で消化管の内壁を撮影する。この結果、撮影画像の枚数が膨大なものになってしまう。一方、通常の内視鏡検査では医師がチューブを操作しながら消化管の内壁を視認するので、読影と撮影が同時に進む。当然ながら、撮影枚数はカプセル内視鏡に比べると極めて少ない。そもそも読影済みなので、撮影画像の再読影は再確認が必要な部位に限られる。解析作業の負担は非常に少ないと言えよう。
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