Analog Devices(ADI)が展開する「E2B」は、車載ネットワークを容易にイーサネット化できる技術だ。ソフトウェア定義自動車(SDV)の実現に向け、ゾーンアーキテクチャへの移行における課題を解決する技術だとADIは意気込む。
ソフトウェア定義自動車(SDV)の実現と進展に向け、自動車のE/E(電気/電子)アーキテクチャは、現在主流のドメイン型からゾーン型へと移行しようとしている。そうした中、車載ネットワークで注目度が高まっているのがイーサネットだ。そこで、自動車のエンドノード、つまりセンサーやモーター、アクチュエーターなどをイーサネットで接続しやすくするための技術「E2B(Ethernet to the edge Bus)」を提案するのが、Analog Devices(ADI)である。同社のオートモーティブ コネクティビティでストラテジック マーケティング マネージャーを務める小野宏氏に、車載ネットワークの現状やE2Bの狙い/メリットを聞いた。
現在のドメイン型アーキテクチャは、SDVのアーキテクチャを実現する上でいくつか課題があると小野氏は説明する。拡張性が少ないので、新しいノードや機能の追加に手間がかかること、コストや設計の複雑性が増す一方であること、ソフトウェアが肥大化していくことなどだ。特にソフトはSDVの根幹となる部分だが、ドメインベースのアーキテクチャでは、ソフトがさまざまな場所に散在する。そのため「分散するソフトウェアモジュールが、Time to Marketや、ポストセールスの売り上げを鈍化させてしまう」と小野氏は語る。
こうした課題を解決すべく、ADIが提案を強化しているのがE2Bだ。E2Bは、低速のボディー制御系アプリケーションをターゲットとしたもので、ゾーン電子制御ユニット(ECU)の先に接続されるモーターやアクチュエーター、センサーを、イーサネットに接続しやすくする技術。車載イーサネットの標準規格10BASE-TS1に準拠している。小野氏は、E2BはRCP(Remote Control Protocol)を実現するための技術とも説明する。RCPは、ゾーンECUとエッジデバイス(アクチュエーターやセンサーなど)間をつなぐデバイスで、RCPがあることで、セントラルECUが車載ネットワークを通じてエッジデバイスを疑似的に制御できるようになる。
ゾーンアーキテクチャへの移行において最大のポイントになるのが、「全ての車載ネットワークをイーサネット化していくこと」だ。現在のドメイン型アーキテクチャでは、エッジのセンサーやアクチュエーターを制御するために、CANやLINなどさまざまなプロトコルが混在している。エッジデバイス間のやりとりにはプロトコル変換が必要になるので、CPUのリソースを余分に使用したり、遅延が発生したりする要因になっている。
イーサネットでエッジ周りを統一すれば、上記の課題が解消するとともに、ソフトウェアを共通化できるので、アーキテクチャもよりシンプルになる。イーサネットにはさまざまな通信速度があることもメリットだ。「E2Bは10メガビット/秒(Mbps)だが、イーサネットの規格には100Mpbsも1Gbpsもある。さらに、マルチギガビットも普及し始めている。いずれもフレームは共通なので、拡張性が高いアーキテクチャを構築できるようになる」(小野氏)
CANでは、最大20Mbpsの速度をサポートする「CAN XL」がある。だが小野氏は、CANではCAN XL以降が発表されていない点を指摘する。「イーサネットは、100BASE-T1や1000BASE-T1が既にバックボーンネットワークで使われている。それを車載用に低速版に派生させるという方が、理にかなっているのではないか」。さらに「誤解されていることが多い」とした上で、CAN XLには下位互換性は無いことにも言及した。「CAN FDとCAN XLは別物なので、CANやCAN FDの資産はCAN XLには使えない。その点、イーサネットはソフトの資産を流用できるので、このメリットは非常に大きい。われわれは、今後の車載ネットワークではイーサネットが主流になってくると考えている」と強調した。
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