小野氏によれば、現時点でE2B RCPの引き合いが最も多いアプリケーションは車室内照明と外部照明だという。既に、グローバルの自動車メーカーにも採用されている。「機能安全にそれほど関わらない部分から採用が進んでいるが、今後は、セーフティクリティカルな用途でも採用が広がりそうな動きがある」と小野氏は述べる。
その一つが、SbW(Steer-by-Wire/ステアバイワイヤ)だ。SbWは、ステリングホイールとタイヤの間を、ラックやピニオンなどの機械的な機構ではなく、電気信号で接続する技術である。ハンドル操作を電気信号に変換し、モーターによってタイヤを制御する。「自動車業界では、SbWを10BASE化しようという流れがある。ことし(2025年)のCESでは、われわれのE2Bトランシーバーと、磁気回転センサー『ADMT4000』を使ったSbWのデモを披露した」
ADIのE2Bは、BMWグループの車両に搭載されるアンビエント照明システムに採用されることが発表されている。同モデルは2025年内に市場に投入される予定だ。
E2Bの最終的な目標は、CANやCAN-FDを置き換えることだ。ただ、車載ネットワークをイーサネット化することに対する自動車メーカーの認識は、国や地域によってだいぶ温度感が異なるという。「欧米の自動車メーカーはアーキテクチャを主体に考えるので、エッジノードも含めてイーサネット化するという流れで考えることが多い。一方で日系の自動車メーカーは、部分的に変えていくことを好むため、既存システムとの互換性を重視してCANを残したがる傾向がある。ただし、それによってシステムはより複雑になることが多いので、そこは悩ましいところではないか」(小野氏)
小野氏は「現状のアーキテクチャのどこを変更していくか、という手法で設計を進めると、イーサネット化の利点が、どうしても『CANに対するコストの優位性はどうか』という発想でとどまってしまう。このような視点だとイーサネット化はなかなか広がらない」と指摘する。「SDV実現に向けゾーンアーキテクチャに移行するのであれば、アーキテクチャ全体を考慮し、その上でイーサネット導入のメリットを考える必要がある」
一方で、ここ数年で日本の顧客のE2Bに対する反応は、だいぶ変わってきたとも述べる。「数年前までは箸にも棒にも掛からぬ状態だった。それがここ1年で変わってきた」(小野氏)
小野氏によれば、ADIは、ティア1だけでなく自動車メーカーと直接議論する機会も増えたという。「ソフトのオーナーシップは自動車メーカーが持っていたいというのが、SDVの最終形態ではないか。E2B RCPのソリューションは、そうしたメーカーの方向性に親和性が高い。そのためわれわれは、自動車メーカーにとってのE2Bのメリットを繰り返し訴求してきた。この1年ほどで、自動車メーカーではE2B RCPのコンセプトがだいぶ浸透している。そうなると、今後はティア1が積極的に動き出していく。それがまさに今の状態だ」。とはいえ、モジュールメーカーやティア2サプライヤーには、車載ネットワークとしてのイーサネットの概念がまだ浸透していないことも多いという。「そうしたところには手厚くサポートして、エコシステム構築に努めていく」(小野氏)
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