東京大学の研究グループは、反強磁性体を用いた次世代MRAM開発において、超高速スイッチングを実現するための設計指針を示した。
東京大学大学院理学系研究科の松尾拓海大学院生(当時)、肥後友也特任准教授(現在は慶應義塾大学理工学部准教授)、中辻知教授らによる研究グループは2026年7月、反強磁性体を用いた次世代MRAM開発において、超高速スイッチングを実現するための設計指針を示した。
次世代のロジック/メモリ技術として、膨大なデータを高速かつ低消費電力で処理し記憶できる不揮発性磁気メモリ(MRAM)が注目されている。特に、MRAMをより省電力で高速に動作させるための磁気記録層材料として期待されているのが反強磁性体だ。
今回の研究には、反強磁性体でありながら異常ホール効果やトンネル磁気抵抗効果などが得られ、磁気状態を電気的に読み出しやすい、「カイラル反強磁性体(Mn3Sn)を用いた。ところがMn3Snは、スピン軌道トルク(SOT)によって磁気スイッチングを行う場合、スピン流による直接的な制御「内因性機構」だけでなく、発熱と冷却過程に支配される「温度アシスト機構」が大きく寄与することもあるという。
そこで研究グループは、Mn3Snの膜厚を15nmから200nmまで変えたMn3Sn/タンタル(Ta)多層膜を、シリコン基板上に作製。これらの膜をホールバー形状に加工し、SOTによる磁気状態のスイッチング特性を調べた。
この結果、Mn3Snの膜厚が厚い素子では、電流を流した時に発生するジュール熱が書き込みを助ける「温度アシスト機構」が支配的であった。これに対し膜厚が30nm以下になると熱を効率よく逃がすことができる。このため温度上昇や消費電力が抑えられ、低い電流密度で磁気状態をスイッチングできることが分かった。このことから、Mn3Snの膜厚は、SOTによる書き込み機構を決める重要な要素になることを実証した。
左はMn3Sn(15〜200nm)/Ta(5nm)多層膜におけるSOT反転電流密度のMn3Sn膜厚依存度。中央はSOTでの磁気スイッチング観測時に印加した電力のMn3Sn膜厚依存性。右はSOTでのスイッチングに必要な電流を印加した時に、デバイスが到達する温度の計算結果[クリックで拡大] 出所:東京大学さらに、膜厚が15nmのMn3Sn素子だと、電流パルス幅を100ミリ秒から10ナノ秒まで変化させても、スイッチングによって変化する電気信号の大きさは変わらないことが分かった。このことは、薄いMn3Sn層の素子においては、内因性機構によるSOT反転が起こっていることを示すものだという。
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