では、ここからは、介護サービス市場の特殊性についてのお話をします。
よく、「若者◯人で、高齢者1人を支える」とか記載されていますが、正直、私、このフレーズ聞き飽きました*)。
*)例:高齢社会白書(2018年版)、65歳以上を15-64歳で支えた場合の人数比率
というか、これについては、私は西暦3222年までシミュレーションをしていますので、興味のある方はご覧ください(参考記事(他社サイトに移行します))。
そもそも、「若者(65歳以下という意味では、私も若者)」が、高齢者を支えている、といわれても、私は、街中で若者が高齢者を支えている様子を具体的に見ることはありません(電車で席を譲るのを見るくらい)。
現実的に私が支えている(いた)と認識できるのは、他界した父と、現在寝たきりの母だけです。そして、私にとって、父と母以外の高齢者がどうなろうが知ったことではありません。
もちろん「若者◯人で、高齢者1人を支える」とは、国家の財政の話であることは知っています。もちろん、その情報も大切なことですが、もっと大切なことは、「介護サービスのフロントで奮闘されている方」のことです。
現在でも介護の現場は人手不足で限界の状況にあります。加えて、他の業種と比較しても離職率は高く、賃金も低いです(が、その手の記事は、そこらにありますので、ここでは言及しません)。
そこで今回、私は「若者」の人数ではなく「介護職員/訪問介護員(ホームヘルパー)」の人数と、「高齢者」の人数ではなく「要介護認定者」人数で、計算を試みました。
具体的には、現在の介護フロントで働いている人の比率が、全労働人口に対して一定であり、要介護者も現在の比率を維持するという、考えうる最高に楽観的なモデルで、フロントで働いている人1人が担当する要介護者人数を、2050年まで、ざっくりと算出してみました。
このような楽観的な条件で計算しても、人手不足は解消されるメドが立たず、状況は悪化の一途をたどります(ちなみに厚生労働省の試算では、さらに厳しい見積もりが出されています)。
そもそも、わが国には、介護職員/訪問介護員(ホームヘルパー)を合わせても、たかだか170万人しかいません。これは、日本の労働人口の3%にも至りません。これで最終的には、人口の3分の1にもなる高齢者の中の要介護者の全てを支えるというのは、当然無理だと思います。
また先ほど述べたように、人間は突然死(心不全、脳溢血など)でもない限り、必ず数年から十数年の介護フェーズを経た後に死に至ります。ということは、介護の対象は、ほぼ日本人全員である、と考えなければならないでしょう。
さて、冒頭で述べた通り、認知症で外部の介護サービスを受け続けなければならなかった私の父は、たった一人で、一週間当たり3人分のヘルパーと、3日分のデイケアサービス事業と、受診医療を支えて、GDP(国内総生産)に多大な貢献をしていました。
介護に関するお金は、ストック(貯金)されることなく、直ちに市場に流れ出る、極めて優良な債権です。しかも、その市場規模は、現時点で10兆円もあり、今後、この市場がシュリンク(縮小)する可能性は絶無と断言できる、超優良な安定市場です。
しかし、問題は、その市場規模を支えるインフラ、特にリソース(人材)が絶望的に足りないということです。加えて、介護サービスは、簡単に機械化できませんし、サービス供給者は、モノと違って、心や感情がある分、その運用がめちゃくちゃに難しくて面倒です。
最も簡単そうなIT分野ですら入り込むことが難しいのです。なんでも、要介護人の個人情報の観点から、電子メールを使った伝達事項すらもできない、ということが建前となっているようです
わが家には、介護ノートというものがあり、それを複数のヘルパーさんが手書きして、申し送りをしているという ―― いつの時代の話だ……! ―― が、まかり通っていたくらいです。
そんな、コテコテで非効率なアナログの世界に、スマホ(スマートフォン)を自由自在に操る若者が、好んで参入してくるとも思えません(参考:著者のブログ)。
つまるところ、介護サービス市場の規模(パイ)は十分に大きいのですが、その高度な技能や環境の特殊性から、その市場を支えるだけのリソースが不足し続けているのです。
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