コンデンサやインダクタ、フィルタなどの選定を支援するソフトウエア・ツールの拡充が進んでいる。受動部品メーカーが、顧客である電子機器メーカーの回路設計者に向けて、ウェブサイトで提供中だ。さまざまな特性を考慮しながら採用候補を簡単に絞り込める。こうしたツールの拡充で受動部品メーカーは、新規顧客の獲得などによる拡販のほか、営業部門において顧客から受けた情報提供の要請に対応する負荷の軽減を狙う。
コンデンサやインダクタ、フィルタなどの選定を支援するソフトウエア・ツールの拡充が進んでいる。受動部品メーカーが、顧客である電子機器メーカーの回路設計者に向けて、ウェブサイトで提供中だ。さまざまな特性を考慮しながら採用候補を簡単に絞り込める(図1)。こうしたツールの拡充で受動部品メーカーは、新規顧客の獲得などによる拡販のほか、営業部門において顧客から受けた情報提供の要請に対応する負荷の軽減を狙う。
受動部品は、半導体チップなどの能動部品に比べると、機能そのものは単純である。すなわちコンデンサであれば電荷と電圧の関係を定義し、インダクタであれば磁束と電流の関係を定義するというのが基本的な機能だ。しかし、回路設計時に適切な受動部品を選定する作業は、それほど単純ではない。
その理由としては第1に、検討すべき特性が多岐にわたることが挙げられる。例えばコンデンサの選定を考えてみよう。もちろん静電容量や外形、耐圧などの基本的な特性だけで選定できる場合もある。ところが実際にはこれらに加えて、周波数特性や温度特性、直流(DC)バイアス特性などを考慮しなければならない場合が多い。
第2の理由は、選定の対象になる品種が極めて多いことである。受動部品の大手メーカーは、特性が異なる数百∼数千もの品種を用意している。例えばコンデンサでは、静電容量が同じ値でもそのほかのさまざまな特性が異なる何十もの品種が入手可能だ。これらの中から、前述のように数多くの特性を多面的に考慮して、適切な品種を選定しなければならない。
かつて回路設計者は、メーカーが提供する紙のカタログを見たり、サンプル品を入手して試作機に実装したりすることで受動部品を選定していた。ところが 1990年代の後半には、設計期間の短縮や設計品質の向上を狙って、コンピュータ・シミュレーションを活用したいわゆる「机上設計」が広く普及した。
そうすると、サンプル品による評価の前に、机上で部品の選定を済ませたいという要求が高まる。これに、インターネットの普及や、通信速度の向上というインフラの整備が重なった。この結果、受動部品メーカーは1990年代の後半以降、ウェブサイトを介して電子的な特性データや選定支援ツールを提供し始めた。例えば受動部品大手メーカーの村田製作所は、「1997年に、Sパラメータの測定データをウェブサイト上で公開し始めた。続いて1998年には、積層セラミック・コンデンサとチップ・コイルのSパラメータとインピーダンスを計算して表示するツールのダウンロード・サービスを始めた」という。
現在、提供されているサービスの内容は、受動部品メーカー各社で異なっている(表1)。こうした中、2008年4月に、受動部品の大手メーカーであるTDKと太陽誘電が相次いで、ウェブサイトでの情報提供サービスの拡充を発表した。
TDKは、2004年6月から提供している部品選定支援ツール「Components Characteristic Viewer(CCV)」の機能を高めた。このツールは、ユーザーの手元で動作するウェブ・ブラウザ上で、部品の特性情報をグラフ表示するビューア機能を備えたウェブ・アプリケーションである*1)。同社が供給する受動部品の中から、さまざまな検索項目(パラメータ)に特性が当てはまる品種を絞り込める。
もう一方の太陽誘電は、同様の機能を備えるビューアを同社としては初めて開発し、提供を始めた。「Taiyo Yuden Components Selection Guide & Data Library」と呼ぶ。TDKのCCVとは異なり、太陽誘電のウェブサイトからダウンロードし、手元のパソコンにインストールして使う*2)。
同様のビューアはこのほか、国内の大手受動部品メーカーである村田製作所も以前から提供していた*3)。このため後発となる太陽誘電は、「ビューアとしての操作性を高めることで、先行する競合他社のツールに比べて独自性を出した」という。
TDKが投入したCCVの新バージョン「Ver.2.01.00」では、コンデンサとインダクタについて、DCバイアス特性と温度特性を表示できるようにした*4)(図2)。従来版は周波数特性の表示にとどまっていた。
この改良によってユーザーは、「特に電源回路などの設計時に、実際の使用条件に近い状態における受動部品の特性を確認できるようになる」(同社)という。電源回路では電力を扱うため、構成部品に大きなDCバイアスがかかったり、発熱によって温度が変動したりする。このほか、電源回路とその負荷であるマイコンなどとの間にデカップリング用に挿入するコンデンサも、電源回路の出力電圧がDCバイアスとして印加される上に、負荷による発熱の影響を受ける可能性がある。
もちろん紙のカタログやそれをPDF形式で電子化したカタログにも、DCバイアス特性や温度特性は掲載されている。ところがこうしたカタログに掲載されているのは、「DCバイアス特性については常温における特性で、温度特性についてはDCバイアスを印加していない場合の特性だけだった」(TDK)。つまりユーザーは、実際の使用条件とは異なる条件で部品を選定しなければならない場合が多かった。
そこでCCVでは、DCバイアス特性については複数の温度条件における特性を、温度特性については複数のDCバイアス条件における特性をそれぞれ用意した。ユーザーはCCV上で、想定する使用条件に近い条件における特性を選択して閲覧できる。従来こうした特性情報を得るには、TDKに対して営業担当者などを介して提供を要請する必要があり、ユーザーの手間が大きかった。
ただし現時点では、CCVに特性を収録した受動部品のすべてについてDCバイアス特性と温度特性を閲覧できるわけではない。コンデンサについては約1200品種のうち33%程度、インダクタについては約1400品種のうち46%程度である。
これについてTDKは、「今後、これらの特性の閲覧に対応する品種を増やしていく。ただし現時点でも、実際にユーザーがDCバイアス特性と温度特性を評価する必要がある品種に限定すれば、すでにコンデンサは52%、インダクタは95%をカバーしている」と説明する。例えば、いわゆる「温度補償用コンデンサ」など、特性の温度依存性がもともと低く抑えられている品種については、選定の際に温度特性を評価する必要がないからだ。
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