太陽誘電が提供を始めたビューアのTaiyo Yuden Components Selection Guide & Data Libraryでは、紙やPDF形式で一般に提供しているカタログと同様の特性情報に加えて、同社が「テクニカル・データ」と呼ぶ詳細な特性情報も閲覧できる。
例えばコンデンサについては、品種によって若干異なるが、カタログに掲載されている特性は基本的に、静電容量とインピーダンス、等価直列抵抗(ESR)の周波数特性のほか、静電容量の温度特性にとどまる。これに対し、テクニカル・データは通常、顧客からの要求に応じて品質保証部門が提供する特性情報で、等価直列インダクタンスの周波数特性や、静電容量のDCバイアス特性といった特性情報が含まれる。
操作性で工夫した点は、さまざまなパラメータを指定して品種を絞り込む検索機能である。複数のパラメータを任意の順番で指定して絞り込めるようにした(図3)。例えば村田製作所が提供しているビューアの「Murata Chip S-Parameter & Impedance Library」や「Murata Chip Capacitor Characteristics Data Library」では必ず、コンデンサの外形(実装面積)⇒静電容量の温度係数(TCC)⇒静電容量⇒耐圧の順に指定して絞り込む必要がある。これに対し太陽誘電のビューアでは、静電容量のみを指定して絞り込んだり、静電容量を先に指定して絞り込んだ品種の中から所望の外形の品種を選んだりといった柔軟な使い方が可能だ。「絞り込みの際に優先するパラメータは、ユーザーごとに、あるいは設計案件ごとに異なる」(太陽誘電)。
さらに、検索パラメータとして部品の厚みを指定できるようにした。「低背品を容易に検索できる」(同社)というメリットがある。他社が提供するビューアの検索機能では、外形として「0603サイズ(0.6mm×0.3mm)」や「1005(1.0mm×0.5mm)」といった実装面積のパラメータしか指定できない。ユーザーが厚みを確認するためには、品種を絞り込んだ後で、さらにその品種の詳細情報を表示させる必要があった。
受動部品メーカー各社の選定支援ツールは、受動部品ユーザーに確実に定着しつつあるようだ。TDKによれば、「ビューアであるCCVへのアクセス数は、提供を始めた2004年を100とすると、2006年には366、2007年には560に伸びた。今回のバージョン・アップの効果で、2008年には 1000に達する見込みだ」という。村田製作所は、「ビューアなどのツールと、Sパラメータなどの特性データのダウンロード件数を合計すると、現在のところ月間数千件で安定して推移している。『固定客』が付いているといえるだろう」としている。
こうした中で受動部品メーカー各社が声をそろえるのは、「部品選定支援のオンライン・サービスに、海外からのアクセスが増えている」ことだ。特に、台湾や中国、韓国などアジア圏からのアクセスが多いという。
そこで各社は、オンライン・サービスの多言語対応を進める考えだ。太陽誘電は、「ビューアの中国語版を今期中(2009年3月末まで)にも公開する。このほか中国語版に先行して、2008年夏に英語版を用意するほか、将来的には韓国語版も検討する」という。
TDKのビューアはすでに日本語と英語の両方に対応しており、「2010年初頭にも中国語に対応する」(同社)。村田製作所もビューアをはじめとしたツール群のダウンロード・サイトや、各ツールのヘルプ・メニューについて、「具体的な時期は未定だが、中国語などの多国語対応を進める」とする。
このほか、太陽誘電と村田製作所は、時期については明言していないが、将来的にビューアをウェブ・アプリケーション化することを検討中だという(図4)。村田製作所は、「すでに当社のSパラメータのダウンロード・サイトでは、周波数特性やスミス・チャートを表示するウェブ・アプリケーションを提供しており、下地はできている。これを拡張することで対応する」という。
現在のところ太陽誘電と村田製作所の提供形態では、先に述べた通り、実行ファイルやインストーラ・ソフトウエアをユーザーがダウンロードして、パソコンにインストールする必要がある。すなわちインターネット経由で提供してはいるものの、実際にはユーザー側のパソコンで「デスクトップ・アプリケーション」として動作する。
ウェブ・アプリケーション化は、ユーザーにとっていくつかメリットがある。第1に、ダウンロード作業とインストール作業が不要だ。第2に、常に最新の特性情報を閲覧できる。ビューアが受動部品メーカー側に設置したデータベースを参照するようになるからだ。現在の提供形態ではデータベースもユーザー側のパソコンに格納されており、受動部品メーカーがデータベースを更新した新バージョンを公開しても、ユーザーが能動的にこれをダウンロードし、インストールしない限りパソコン内の特性情報は更新されない。第3に、パソコンに搭載したOSへの依存性がなくなる。現在はWindows搭載パソコン向けだが、ウェブ・ブラウザさえあれば、Mac OSやLinux、UNIXを搭載したパソコンからでも利用可能になる。
このように多言語対応やウェブ・アプリケーション化などで方向性の一致を見せる受動部品メーカー各社だが、提供する特性情報そのものについては、考え方に温度差がある。例えば、各社のビューアが表示する特性情報は、Sパラメータやインピーダンスの測定値を基にしている点では同じだが、それらの測定範囲や測定間隔、測定点数といった条件が必ずしも各社同じではない上に、測定治具も各社で異なっている。
さらにビューアでは、表示される特性が必ずしも測定データそのものであるとは限らない。何点かの測定データを基に、測定データが存在していない点の値を内挿法(補間)によって計算して全体の特性を描き出す場合がある。例えばTDKのCCVでは、DCバイアス特性と温度特性をこの手法を使って表示しているという。
このほか村田製作所が提供するビューアのMurata Chip S-Parameter & Impedance Libraryについては、Sパラメータの測定データを基に作成した等価回路をライブラリ化して内蔵しており、Sパラメータの測定データ自体は収録していない。従ってこのビューア上で表示するSパラメータやインピーダンスなどの特性はいずれも、等価回路を使って計算によって求めたものである(図5)。Sパラメータの測定データは、ビューアとは別にダウンロード・サイトを設けて提供している。
もちろん各社がウェブサイトで提供するこれらの特性情報は、いずれも「部品選定用の参考値」という位置付けであり、「設計用の保証値」ではない。採用して機器に組み込む際には、さらに詳細な仕様や特性を明記した「納入仕様書」を受動部品メーカーに請求し、その内容を確認する必要がある。しかし、だからといって受動部品メーカーごとの特性情報の差異を無視できるとは限らない。従ってユーザーは、ビューア上で特性を確認したり、電子的な特性データを入手してシミュレーションを実行したりする際に、特性情報の精度がそれぞれの評価条件において妥当かどうかを必要に応じて検証すべきだろう。
このほか、各社が提供するビューアでは、各受動部品メーカーの品種についてしか特性情報を閲覧できないことにも注意してほしい。すなわち同じメーカーが供給する複数の品種の特性をそのメーカーのビューア上に並べて表示し、比較検討することは可能だが、異なるメーカーの同等品の特性を単一のビューア上に並べて表示することはできない。受動部品大手メーカーのパナソニックエレクトロニックデバイスは、「ユーザーが最も望んでいるのは、異なるメーカーの部品を比較した上で選定することだ」と指摘する。
異なるメーカーが提供する受動部品の机上比較を実現するには、Sパラメータや等価回路モデルなどの電子的な特性データを読み込んで表示できる機能を備えたシミュレーション・ソフトウエア(シミュレータ)を使う方法がある(図6)。例えば、EDAツール・ベンダーの米Ansoft社が無償で提供する「Ansoft Designer SV」などを利用すればよい*5)。「こうしたシミュレータを使えば、各社の部品特性を簡単に比較できる」(パナソニック エレクトロニックデバイス)。
しかも実際には、シミュレータを使わずに特性データの比較だけで部品を選定したい、周辺部品と組み合わせた回路全体の挙動をシミュレータ上で解析したいといった具合に、ユーザーや設計案件ごとに異なるニーズが存在する。このためパナソニックエレクトロニックデバイスは、「カタログと、シミュレータで利用できる電子的な特性データを提供すれば、いずれのニーズにも応えられる。こうした観点から、当社ではビューアを提供していない」と説明する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.