イギリスの大手銀行ロイヤルバンク・オブ・スコットランドのアナリストによれば、サムスン電子が2010年9月に発表したARM Cortex-A9搭載デュアルコアプロセッサ「Orion」には、アームのグラフィックスプロセッサ(GPU)コア「Mali」を採用しているという。
サムスン電子はこれまで、イマジネーションテクノロジーズグループのGPUコア「PowerVR」を採用し、ARMプロセッサと組み合わせて使ってきた。しかしアーム自体もGPUコアを用意しており、そのグラフィックス技術がユーザー企業が求めるレベルに応えられれば、GPUとCPU両方のIPコアのロイヤルティを組み合わせたパッケージ契約を提案することができる。このため、競合他社のGPUコアを駆逐していく可能性を秘めている。
ロイヤルバンク・オブ・スコットランドで欧州技術調査部門の部門長を務めるDidier Scemama氏は、顧客向け資料の中で、「当社の調査によると、サムスン電子は新しいモバイル向けプロセッサチップ『Orion』にアームのGPUを採用したようだ。これはアームの戦略的な勝利である。なお、Orionは2011年に量産体制に入る予定だとみられる」と述べている。
Orionは、タブレット型コンピュータやネットブック、スマートフォンなどのアプリケーションに向けたプロセッサだ。Scemama氏によれば、アプリケーションプロセッサ市場ではサムスン電子が世界最大手ベンダーだという。そのほかのアプリケーションプロセッサ・ベンダーとしては、クアルコムが最近、1.2GHz〜1.5GHz動作のデュアルコアプロセッサを発表している。同社独自設計のプロセッサコア「Scorpion」をベースにしており、ARMv7の命令セットアーキテクチャに準拠する。またST-エリクソンは、デュアルコアCortex-A9とMaliを統合した独自プロセッサ「U8500」を用意している。このU8500は最大1.2GHzのクロック周波数で動作する。
Scemama氏はさらに次のように付け加えている。「サムスンLSI(サムスン電子の社内でシステムLSIを担当するグループ)はこれまで、すべてのアプリケーションプロセッサ・チップでイマジネーションテクノロジーズのGPUコアを使用してきた。サムスン電子の報道発表でも、イマジネーションテクノロジーズのGPUを搭載したことでOrionのGPUパフォーマンスを従来品の5倍に高められたと言及している。今回のアームのデザインウィンは、サムスン電子がMaliのGPUライセンスを購入してから半年後の出来事である。アームはさらに、このアプリケーションプロセッサによってPIPD(Physical Intellectual Property Division、物理IP部門)のロイヤルティ収入も得ることになるはずだ。サムスンLSIはアームの45nm世代におけるPIPDパートナーであり、このプロセッサも製造もサムスンLSIの工場で製造するからである」(同氏)。
同氏によれば、ARMコアを搭載する既存プロセッサでは、ほとんどの場合ロイヤルティ料率は1%である。サムスン電子のOrionやST-エリクソンのU8500のように、1枚のチップにアームのCPUコアとGPUコアを組み合わせて集積する場合は、アームが得られるロイヤルティ料率は2%になるという。
Orionプロセッサは、サムスン電子の次世代携帯電話機「Galaxy」やタブレット型コンピュータに搭載される。Scemama氏の予測では、これらの出荷台数は2011年後半に3000万台に達するという。このためアームは、900万米ドル〜1200万米ドルのロイヤルティ収入を見込めことになる。さらに同氏は、ロンドン証券取引所におけるアーム株の目標価格は4.20ポンドだとし、今が買い時であると主張した。
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