CSRは、経営上のトラブルを抱えていたZoranを6億7900万米ドルで買収することに合意したと発表した。
英国のCSRは、Bluetoothや無線LANなどの無線通信ICや、GPSやFM放送の受信IC、オーディオICなどを手掛ける半導体ベンダーである。一方、米国のZoranは、デジタルカメラや家庭用エンターテインメント機器、多機能プリンタなどに向けた、動画像処理チップを供給する半導体ベンダーだ。
CSRはZoranを吸収合併することで、現在市場が急激に拡大している、ネットワーク接続機能と位置認識機能をいずれも搭載するマルチメディア機器に向けて、競合他社との差別化を図った統合的なチップを供給できるようになる。そうしたマルチメディア機器としては、携帯電話機やデジタルカメラ、家庭用エンターテインメント機器などが挙げられる。
Zoranの吸収合併後も、CSRは現在のチェアマンとCEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)が引き続き指揮をとる。Zoranの共同創設者であり、プレジデントとCEO、ディレクタを兼任していたLevy Gerzberg氏は、今後は非常勤の役員としてCSRの取締役会に参加する予定だという。Zoranはさらに、CSRの取締役会にもう1人の非常勤役員を参加させたいと申し入れるようだ。
CSRの経営陣は、チェアマンがRon Mackintosh氏、CEOがJoep van Beurden氏、CFOがWill Gardiner氏である。
CEOのvan Beurden氏は発表資料の中で、「デジタル機器では、カメラの画像をPCに送れたり、スマートフォンでテレビ会議を行ったりできるなど、ネットワーク接続機能と高度なメディア機能の搭載が急速に進んでいる。Zoranは、動画像処理技術で市場をリードしており、当社のネットワーク接続技術および位置情報取得技術とを組み合わせることで、大きな機会をもたらすことが可能だ。また、家庭用エンターテインメント市場においても同様に、デジタルテレビをはじめとする幅広い民生機器に無線接続機能を搭載する傾向が高まっている。Zoranの画像処理技術とCSRのネットワーク接続技術とを組み合わせれば競合との差別化を図ることができ、ユーザーに大いにアピールできる」と述べている。
今回の買収手続きは、慣例的な取引条件に従い、CSRおよびZoranの株主や規制機関による承認を取得した後、2011年第2四半期に完了する予定だという。
Zoranの株主は取引条件に基づいて、保有しているZoranの普通株1株につき、CSRの普通株1.85株を米国の預託株式(ADS:American Depositary Share)として割り当てられる予定だという。さらにCSRは、自社株の買い戻しプログラムによって、最大で2億4000万米ドルを株主に還元すると発表している。
赤字が続いていたZoranは、過去数カ月間にわたって困難な状況下にあった。ヘッジファンドのRamiusは最近、Gerzberg氏を含むZoranのディレクタ陣に書簡を送り、「Zoranは、長期間にわたり業績が伸び悩んでいる上、売上高の伸びや利益率に関する予測ミスを繰り返したために、株価下落が深刻化している」と指摘し、Zoranの経営権取得を試みていた。
しかしZoranは、Ramiusからのオファーを複数回にわたって拒否していた。
民生機器向けのIC市場では、このほかにもいくつかの買収が進んでいる。例えばクアルコムは、ライバル企業の無線チップベンダーであるアセロス・コミュニケーションズを約31億米ドルの現金で買収すると2011年1月に発表済みである。
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