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−最終回−若手エンジニアへのエール〜この激動の時代、回路設計者として生きるということ〜Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/3 ページ)

» 2012年04月03日 10時00分 公開
[美齊津摂夫,ディー・クルー・テクノロジーズ]

仕様書の数字の先にあるもの

 アナログ回路はシステム全体から見ると、非常に小規模な回路であることが一般的です。ただ、その小さな回路が周囲とどのように絡んでいるのかを「仕様書の数字の先にあるもの」、つまり開発の背景やその数字となった経緯など、仕様書に込められている「想い」や「夢」を一緒に開発する仲間はもちろん、パートナーやお客さんと共有できる関係になることが大切なのです。

 想いや夢を交換できる信頼関係があってこそ回路設計が楽しくなり、そして今までの不可能が可能になっていくのだと信じています。

 「どんなに新しい技術も自然の摂理から外れることはできない」というのが私の信条です。Intelの最新プロセッサの中で起きていることも、自然現象の一部でしかないと思っています。ですから、自然の摂理は、頭ではなく体に刷り込んでおく必要があります。回路が無理をしている部分や不自然な部分に、頭で考えたり、計算したりしなくても感覚的に気付けるようになっておくことが大事です。

 そのためには何度も繰り返して、基本的な数式を使えるように訓練することは当然なのです。もっと大事なのは、結果を予測して“絵”を描くことです。正確でなくても構いません。自分が求めようとしている特性について、計算やシミュレーションを実施する前に感覚的にどうなるのかを、想像して絵を描いておくことです。そうすることで、計算やシミュレーション結果が出るのが楽しみになります。さらに、当初の想定とシミュレーション結果に差があると、なぜ自分の予測がずれたかを悩むことになります。悩むことが計算式を、つまり自然の摂理を体に刷り込むことになります。

 最初に“絵”を描かないと、高性能なシミュレーターが出した答えを否定することができず、「計算結果がこうなっています」と答えるだけのオペレーターになってしまいます。エンジニアは人なので、意思を持っていることが大事なのです。

「絵」を描こう、悩みを語ろう

図 写真はイメージです

 私が、新しい技術を日々学ぶ上で心掛けていることを若手のエンジニアの皆さんに2つお伝えしたいと思います。1つ目は、電気CAD(シミュレーター)に使われないことです。そのためには、シミュレーターを使わない設計、つまり電卓と紙と鉛筆があれば、回路設計ができてしまうことが大事です。

 くどいようですが、シミュレーションする前に必ず、結果を予測、想像して絵(グラフ)にすること、そしてポイントとなる個所には電卓をたたいて数字を入れておくことが大切です。

 もう1つ大事なことは、一人で悩まないことです。壁に当たっているときは、その壁に穴を開けることしか考えられなくなっていて、横から回り込めば向こうに行けることに気付かないものです。周囲のさまざまな人と対話し、自分の悩みを打ち明けることが自分自身の考えを整理することにもなりますし、自分が持っていない考え方や視点に出会うことにもなります。特に、同じ分野(ここではアナログ回路)ではなく、デジタル回路やファームウェア開発といった違う技術分野のエンジニアとの対話が、まさに「目からうろこ」になったことが何度もありました。

 こんな話があります。大手半導体メーカーが開発を断念した医療用LSIの案件が当社に舞い込んできました。人体に触れるものなので、発熱量(消費電力)には厳しい制限があります。さっそく消費電力を見積もってみたところ、確実にやけどする温度に上昇してしまうことが分かりました。

 回路の性能を下げると開発そのものの意味がなくなってしまうとお客さんから強く言われています。どうしたものかと、デジタル設計のエンジニアに悩みを聞いてもらったところ、「必要な部分だけアナログにして、残りはデジタル的にスイッチで切り替えたら?」とアドバイスをもらいました。アナログ回路だけでまじめに解決しようとしていたので、思いもかけなかった発想でした。その後、この医療用LSIはお客さんの要求を満足する設計結果を得ましたので、新製品に使われることになりました。

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