アナログ回路はシステム全体から見ると、非常に小規模な回路であることが一般的です。ただ、その小さな回路が周囲とどのように絡んでいるのかを「仕様書の数字の先にあるもの」、つまり開発の背景やその数字となった経緯など、仕様書に込められている「想い」や「夢」を一緒に開発する仲間はもちろん、パートナーやお客さんと共有できることが大切なのです。
3年間にも及ぶアナログ技術基礎講「Analog ABC」も今回でいったん区切りをつけることになりました。長きにわたりご愛読いただいた読者の皆さまに、心より感謝致します。
この連載を読むことで少しでも、アナログ回路設計に興味を持っていただき、それが何かのトリガーとなっていただければ幸いです。まだまだ、アナログの世界は奥深く、紹介できてないことがたくさん残っていますが、またの機会に紹介できればと思います。なお、当社Webサイトのブログは続きますので、引き続きよろしくお願い致します。
皆さまも感じていると思いますが、日本を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。国際標準規格の策定では欧州や米国に主導権を握られ、製造拠点は台湾や中国に……と、エンジニアリングの分野で日本の生きる道がどんどんと狭まっています。このような状況の中、日本が生き残るために何が必要か? それは、作りたい機器やシステムが「もやっ」としていて、ぼんやりとしたイメージだとしても、最適な仕様を作り上げて提案し、その仕様に合致した機器やシステムを短期間に高品質で、設計・製造できる「総合的な技術力」ではないかと私は思います。
総合的な技術力に最も重要で不可欠なのは、人と人との信頼関係であり、その信頼関係を築くコミュニケーションではないでしょうか。社内はもとより、パートナーも含めてお互いに信頼し尊重し合う「Win-Winの関係」ができていないと、具体的な仕様が無い中でお客さんが欲しいものを提案し、短期間で具現化することはできないと考えています。
これまで、回路設計をしてきて何が楽しかったかと言うと……自分が想像していた通りに回路が動作したことはもちろんです。さらにうれしいのは、そのことを周囲から感謝され、自分の回路が役に立っていると実感できたときです。たとえ簡単な回路であったとしても、システム全体にどのように関わっているかを知っていると知らないとでは、設計への取り組み方も違います。そして、完成したときの喜びも大きく違ってきます。
例えば、入力信号が無くなったことを通知するコンパレータは簡単な差動対で構成できる回路です。しかし、入力信号が無くなったことはシステムにとっては一大事で、幹線系の通信システムでは予備システムにいち早く切り替えないといけませんし、ネットワークに警報を発信する必要も出てくるかもしれません。信号1つでシステム単体だけでなく大きな通信ネットワークが大騒ぎすることになることを知っていると、うかつにアラームを上げることはできません。かといって、本当に信号が無いのにアラームが出ないのはもっと大変なことになるし……と想像を膨らませ、思いをはせることができます。
単に、仕様書に記載してあるアラーム出力レベルの数字を見るだけの設計よりも、その信号の使われ方を想像して回路設計する方が、苦しさも増えますが、完成したときの楽しさは何倍にもなります。
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