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太陽光を無駄なく使う、201X年の技術エネルギー技術 太陽電池(1/5 ページ)

再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が始まり、太陽電池は激しい価格競争に入っている。このようなときこそ、太陽電池の高効率化を忘れてはならない。なぜなら、変換効率を高めることが、低システムコスト実現に役立つからだ。変換効率向上に対してどのような手法が有望で、どこまで高められるのか、解説した。

» 2012年07月05日 10時00分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]
太陽光を無駄なく使う、201X年の技術 太陽光を追尾する

 太陽電池は既に大量普及期に入っている。この時期に必要なのは性能改善ではなく、量産技術などの改善による低コスト化だ。従って太陽電池の変換効率を高める研究開発は優先度が低い。これは正しいのだろうか。

 このような議論は近視眼的だ。太陽電池はいわば「面積を電力に変える」装置。例えば効率が2倍に高まれば、同じ電力を得るために必要な面積が半分に減る。これが太陽光発電システムのコスト低減にもつながる。面積が半分になれば、たとえ太陽電池自体のコストが変わらなかったとしても、太陽電池を固定する架台の数を半分にでき、輸送コストも半減する。現在、太陽光発電システムに占める太陽電池パネルのコスト比率は半分以下になっており、設置コストや輸送コストの低減がシステム全体の低コスト化に効く。

 高効率太陽電池というと、得られる電力が多くなる効果が重視されているが、導入コストを引き下げる効果も忘れてはならないということだ。


変換効率アップについて、ここを読みたい

効率の限界はどこにある? どこまで達成したのか

太陽熱を利用して、効率改善ができないか

量子ドット太陽電池の研究はどこまで進んだか



どの方式の太陽電池を改善したらよいか

 太陽電池の高効率化が話題に上がる場合、変換効率が60%にも達すると考えられている「量子ドット太陽電池」など革新的な技術が脚光を浴びやすい。だが、量子ドット太陽電池が実用化されるのは早くても2020年。現在広く普及しているタイプの太陽電池の高効率化にも目を向けなければならない。

 現在量産が進んでいる太陽電池はシリコン(Si:ケイ素)を利用した太陽電池と、薄膜太陽電池だ。2011年度(2010年4月〜2011年3月)、日本国内で出荷された太陽電池の76%が結晶Si太陽電池、24%が薄膜太陽電池という状況だ*1)。このような傾向は世界的に見ても一般的である。

*1) 太陽光発電協会(JPEA)と光産業技術振興協会が2012年5月18日に発表した太陽電池の国内出荷統計による(関連記事:「明暗分かれる太陽光発電――住宅用は1.4倍に成長、輸出は悪化が続く」)。76%には単結晶Si太陽電池と多結晶Si太陽電池が含まれ、24%にはSi薄膜太陽電池とCIGS太陽電池などが含まれる。

 結晶Siを用いた太陽電池で最も変換効率が高いのは、単結晶Si太陽電池だ。変換効率は、研究室レベルでは25%*2)に達している。だが、1999年に達成されたこの記録がいまだに破られていないことを見ても、単結晶Si太陽電池の変換効率改善は難しい。なぜ難しいのだろうか。

*2) 米University of New South WalesがPERL(Passivated Emitter Rear Locally-diffused)太陽電池セルを用いて達成した値。セル面積は4cm2。モジュールの最高効率は22.9%で、これも同大学が達成した。モジュール面積は779cm2。いずれも集光していない状態の値だ。

光を有効に利用できないのはなぜか

 太陽電池は、太陽光に含まれている光子がSiなどの半導体中の電子にぶつかり、電子のエネルギーが高まる(励起する)ことで電流を生み出している。このとき、太陽光中の全ての光子を有効利用できないことが、変換効率の上限を決めている。単結晶Siの場合は30%を超えることができない。

 Siなどの半導体中では電子の取り得るエネルギーに制限があり、禁制帯と呼ばれるエネルギーに相当する電子は存在できない。この禁制帯の幅(エネルギー)をバンドギャップと呼ぶ。Siのバンドギャップは1.1eV(電子ボルト)であり、これは光の波長に換算すると1.1μm(赤外線に相当)となる。

 Siは波長1.1μmの光を受けると励起して電流を生み出す。だが1.1μmよりエネルギーが低い(波長が長い)光を受けることはできない。禁制帯を超えて電子のエネルギー準位を持ち上げることができないからだ。

 太陽電池が光子から電流を得るメカニズムは、次の通りだ。禁制帯よりもエネルギーが低い状態にある電子が光子を吸収して、禁制帯よりも高い状態に持ち上がる。もともと電子があった部分には電子の抜け穴(ホール)ができる。1つの光子から1対の電子とホールができるわけだ。太陽電池はp型半導体とn型半導体を接合した構造を採っているため、接合した部分に電界が生まれる。この電界を受けて電子とホールは逆方向(左右)に進む。そのままそれぞれが太陽電池の電極に達すれば光子のエネルギーを電流として取り出せたことになる。このとき、バンドギャップ以上のエネルギーを吸収してもその分は無駄になる。

 それではSi以外の材料を使えば、限界を破れるのではないだろうか。

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