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太陽光を無駄なく使う、201X年の技術エネルギー技術 太陽電池(5/5 ページ)

» 2012年07月05日 10時00分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]
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なぜ量子ドット太陽電池が魅力的なのか

 このように今後10年間は、太陽電池の変換効率向上を、多接合や集光、熱利用などで実現していくことになるだろう。その後はどうなるのだろうか。

 量子ドット太陽電池がある。量子ドット太陽電池が高効率太陽電池として注目されているのは、多接合を極限まで利用できることが1つの理由だ。量子ドットのサイズを垂直方向に少しずつ変化させることで、さまざまなエネルギーを持った光子に適合するバンドギャップを連続的に並べることができる。これは半導体のバルク材料や一般の半導体薄膜では不可能な芸当だ。さらに、量子ドットを3次元に並べて、本来存在しなかったバンドギャップ(中間バンド)を作り出すこともできる。

 量子ドット太陽電池の開発が難しいのは、あらかじめ決めた寸法の微小な結晶粒を、極めて正確な間隔で並べることが必要だからだ。

 東北大学は材料の自己組織化を利用して、量子ドット太陽電池を開発している。同大学流体科学研究所と原子分子材料科学高等研究機構の教授である寒川誠二氏は、2012年6月、「Si量子ドット太陽電池において世界最高の12.6%を達成した」と発表した(図4)。セルの寸法は1cm角で、AM1.5条件で測定した。開発した構造を4〜5層積層すれば、理論的に効率40%のSi量子ドット太陽電池の実現が見込めるという。

図4 東北大学が開発したSi量子ドット太陽電池 直径6.4nmのSi量子ナノ円盤アレイをSi基板上に均一に作り上げた(図左)。円盤の面密度は1012個/cm2。p型Si上にSiC(炭化ケイ素)で挟んだナノ円盤アレイを作り、n型SiとITO透明電極を重ねた構造を採る。Si量子ナノ円盤とSiCの間で2〜3eVの中間バンドが形成されるという。図右は2009年に最高効率を達成したオーストラリアUniversity of New South Walesの開発した構造。出典:東北大学

 寒川氏の手法の利点は、直径がそろったSiナノディスクを一定間隔で基板上に形成できることだ。半導体として扱いやすいSi材料を使えることが魅力だ。それ以上に、Siナノディスクの直径と厚さを制御でき、1.3〜2.3eVのバンドギャップを正確に作り込むことができる点に意義がある。

 通常の量子ドット太陽電池では、薄膜を製造する手法を応用して、半導体材料を基板の上に直接重ねていく。寒川氏の手法では、半導体の上に一定間隔のパターンを作り込んでエッチングしている。

 パターンを作り上げるために、フェリチンという物質を使う。フェリチンは人体に必要な鉄を貯蔵するタンパク質であり、肝臓などに含まれている。寒川氏の手法でも、フェリチンで鉄微粒子をくるむ。すると直径9nmのフェリチン鉄複合体間で疎水性相互作用が働き、基板上で一定間隔に複合体が並ぶ。これがパターンの元になる。

 次に、タンパク質を除去するために酸素雰囲気でアニールすると、鉄微粒子だけが残る。最後に上部から中性粒子ビームを照射するとSiをエッチングでき、鉄を塩化水素で除去するとSiナノディスクが完成する。

1粒で2度おいしい多重励起子生成

 量子ドット太陽電池が注目を集めるもう1つの理由は、光子1個から電子ホール対は1組しか得られない、という限界を突破できるからだ。バンドギャップの2倍以上のエネルギーを持った光子を吸収し、2組の電子ホール対を得る手法がある。多重励起子生成(MEG:Multiple Exciton Generation)と呼ばれる。

 2011年12月、米National Renewable Energy Laboratory(NREL)は多重励起子生成を確認したと発表している。NRELの実験では、3.44eVのエネルギーを持つ紫外線をセレン鉛(PbSe)量子ドット太陽電池に照射した。光に対する電子ホール対の生成割合は130%(内部量子効率)に達しており、100%を超えている。つまり光子1個から複数の電子ホール対を生み出せたことになる。

 NRELの実験が優れているのは、内部量子効率だけではなく、外部量子効率も100%を超えたことだ。外部量子効率とは電力として太陽電池の外部に取り出せた電子の数と吸収した光子の数の比。これが114%だったという。



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