米トランプ政権の関税政策に対し、半導体関連企業が次々に懸念を表明している。TSMCは、これ以上の措置がある場合、進行中あるいは検討中のプロジェクトの実行が危うくなると苦言を呈す。
米国内で新工場を建設している大手半導体メーカーは、トランプ政権に対し「新しい関税を課すことで、国内産業復活のけん引役として急増している工場建設が一時停止するなど、米国の技術リーダーシップが弱体化するなどの可能性がある」と警告している。
TSMCやIntel、Micron Technology(以下、Micron)などの半導体メーカーは2025年5月、半導体チップ/半導体製造装置(SME)およびその派生製品の輸入による国家安全保障に及ぶ影響について、米国商務省が行った調査に対し、公式な回答を発表した。米国は1962年通商拡大法(Trade Expansion Act of 1962)のSection 232に基づき、この調査を開始した。
ドナルド・トランプ大統領は「関税により、米国への製造投資が増加する見込みだ」と公言しているが、半導体メーカーや業界アナリストは「米国半導体業界が自給自足できるようになるまでにはまだ数十年はかかるため、もっと慎重に進めるべきだ」と要請している。
TSMCは回答の中で「半導体製造装置に輸入関税が課されると、プロジェクトコストが上昇して進行が遅れたり、場合によっては、既に発表されている多くのプロジェクトや現在検討中のプロジェクトなどの商業的実行可能性が危うくなる可能性もある。輸入されている半導体製造装置や半導体材料の多くは、品質面でも数量面でも米国内では現在入手不可能なものだ」と述べている。
例えばオランダのASMLは、AIチップの生産に不可欠な極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置の唯一のサプライヤーである。同社の高NA(開口数)EUV露光装置「TWINSCAN EXE」1台の価格は、約3億8000万米ドルだ。米国がASML製装置に高関税を課せば、米国内での生産コストが大幅に上昇することになるだろう。
米国内の数十億米ドル規模のプロジェクトが、現在危機に直面している。
トランプ大統領が2025年3月に就任した直後、TSMCは、米国への投資を1000億米ドル追加すると発表した。これは、単独企業の海外直接投資としては米国史上最大規模であり、米国でのAIチップの生産開始を支援するものとなる。
米国拠点のMicronは、今後20年間で1400億米ドルを投じ、製造をアジアから米国に回帰させる予定だという。同社は「米国工場は関税により、米国外の工場と比べて競争力が弱体化するなど、商業的に実行不可能になる可能性がある」と述べている。
現在、世界メモリ生産量全体に占める米国の割合はわずか2%であり、その全てをMicronが製造している。同社は、このシェアを12%まで拡大し、DRAMチップ全体の40%を米国で生産できるようになる見込みだという。
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