大手ファウンドリであるGLOBALFOUNDRIESのCEOを務めるAjit Manocha氏が、厳しい事業環境にさらされている日本の半導体産業に対して、新たな半導体ビジネスモデルとなる「Foundry 2.0」への移行を提案した。
大手ファウンドリであるGLOBALFOUNDRIESは2013年2月7日、東京都内で会見を開いた。会見に出席した同社CEO(最高経営責任者)のAjit Manocha氏は、「日本の半導体ベンダーはこれまで蓄積してきた製造技術などを生かしつつ、ファブレス/ファブライトという事業形態に移行すべきである」と強調した。その上で、Ajit氏は「当社が提唱する新しいビジネスモデル『Foundry 2.0』への移行が日本の半導体ベンダーを活性化させる方策の1つである」との見方を示した。そして、半導体ビジネスを野球の試合に例え、「試合は続行中で6回を迎えたところ。日本の半導体ベンダーは市場で復活するために打者の順番を変えることも必要だ」と述べた。
日本の半導体各社は、業績不振が続き生き残りをかけて新たな戦略を模索している。その問題解決策としてGLOBALFOUNDRIESは、Foundry 2.0を提案している。Ajit氏は「従来のIDM(Integrated Device Manufacturer)や、旧来の水平分業型ファウンドリと言える『Foundry 1.0』のビジネスモデルは今後通用しなくなるだろう」と語る。「IDMは単機能の製品開発を行うには最適かもしれない。しかし、複数の機能を統合した製品群を開発する時、それは足かせとなる。つまり、開発のシステムと方法が硬直化し変化への対応が遅くなる。このため市場や技術の多様性に対応することができない」というのがAjit氏の見方だ。
Ajit氏はFoundry 2.0を、「半導体ビジネスを成功させるためのエコシステム」と位置付けている。「これまで日本の半導体ベンダーが得意としてきたIDMは垂直統合型モデルである。また、Foundry 1.0は、水平分業型モデルであり、ホモジェニアス(同種)のファウンドリ・パートナーというイメージだ。これらに対してFoundry 2.0は、ファウンドリやファブライトなIDM、ファブレスICベンダー、システムベンダー、EDAツールベンダー、組み込みソフトウエアベンダーなど、ヘテロジュニアス(異種)な企業がシームレスな共同体制で、初期段階からかかわりをもって開発に取り組むことだ」、と説明する。いわゆる、「仮想IDM」として成功を共有化するビジネスモデルとなる。
Ajit氏は2008年に「Foundry 2.0」のビジョンを提唱した。「当時は2020年にこのような時代が来ると予測したが、実際は2013年に現実のものになろうとしている」と述べる。
Ajit氏が新しいビジネスモデルへの移行を押し進める大きな理由が、モバイル時代の到来である。半導体消費をけん引するアプリケーションの主役がこれまでのPCからモバイルへと移ったからだ。
現在、世界の人口は約70億人である。そして、60億個以上の携帯電話機が使われている。半導体消費からみても、これまでの20年間はPCが牽引してきたが、2012年に携帯電話機向けがPC向けの半導体需要を上回った。半導体消費という視点からみれば、今後はスマートフォンが、これまでのPCの役割を担うこととなる。
技術面からも新たな時代を迎えていることが見て取れる。最新のスマートフォンは、携帯電話機やコンピュータ、ゲーム機、メディアプレイヤー、ナビゲーションシステムといった機能を併せ持った製品である。その上、ポケットに入るような小型化が進んでおり、高機能・高性能で少ない消費電力が求められる。
スマートフォンに実装されるデバイスも、さまざまな機能がシステムレベルで統合されて、主要な回路は複数個のICチップに集積されている。もちろん、アプリケーションプロセッサやWi-Fi用の無線チップなど、各デバイスの性能や機能も進化を遂げている。ワイヤレス分野は新技術を導入するサイクルも加速するなど、技術開発における複雑性とコストが大幅に増えている。
この結果、45nm以降の最先端プロセスで製造されるロジックLSIの売上高が急速に拡大している。この先端プロセスにおけるファウンドリ市場は、2011〜2016年のCAGR(年平均成長率)で37%と高い伸びが予測されている。この成長率で推移するとなれば、「年間60万枚のウエハーを処理できる半導体工場を毎年建設しなければならない」(Ajit氏)ことになる。この工場投資には年間50億〜70億米ドル(約4670〜6540億円)が必要だという。
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