ブラジルの飛行家Alberto Santos-Dumont氏は、友人で世界的に有名なフランスのジュエリーデザイナーLouis Cartier氏に「飛行中は手がふさがって、ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認することができない」と話し、パイロット用腕時計を依頼した。Cartier(カルティエ)の腕時計「サントス」は、このパイロット用腕時計が原型となっている。
Cartier氏は1904年に、Alberto Santos-Dumont氏の名を配した腕時計「Santos-Dumont」を制作した。Santos-Dumont氏はその2年後、自身が設計した奇妙な形状の複葉機「14-bis」に乗って、“流行に敏感な街”パリの上空60mで公開フライトを初めて成功させたが、その時にこの腕時計を着けていた。
14-bisから降り立ったSantos-Dumont氏は、飛行記録を更新したことを確認するために時計を見た。観衆はその時、CartierのデザインしたSantos-Dumontを初めて目にした。歴史に残る巧みな製品披露の瞬間だった。
Santos-Dumont氏は、なぜ腕時計を着けたいのかをはっきりと認識していた。それに加えて、天賦の才能とカリスマ性で、偉大な飛行家でもなく飛行中に腕時計が必要なわけでもない大衆の興味を引き付けて、Santos-DumontをCartierを代表するブランドにまで高めた。
Apple Watchの発表を見ると、Appleの販売戦略の巧みさに気付く。ユーザーがこのガジェットに飛びつくように、うまく誘導しているのだ。
Apple Watchの宣伝は、ドラムの音を鳴り響かせ、繰り返し力強くアピールすることによって、そのユーザーインタフェースの無限の可能性を表現している。ただそこからは、Appleが、全ての人々の好みにぴったり合う1種類のスマートウオッチを実現するのは不可能であると認識していることが伝わってくる。Apple Watchは、さまざまな色を取りそろえ、数々の機能を搭載する。キャッチフレーズは、「全ての人にApple Watchを」だ。
むしろ、「全てのApple Watchにユーザーを」ではないだろうか。
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