腕時計は、Santos-Dumont氏が最初に世間の興味をかき立て、Cartierのデザインによって瞬く間にファッショナブルなアイテムになったが、もちろんアナログだ。ユーザーインタフェースも提供する機能もただ1つ、“時間を知らせる”ことである。
Appleは今回、腕時計が本来備えているシンプルさを取り入れようとしたのだろう。同社はホームページ上で、「腕時計が19世紀に発明されて以来、人々は時間を確認するために腕時計を見続けてきた」と述べている。
また同社は、「今日では人々が、このように反射的に“チラッと見る”行為によって多くの情報を得たいと考えている。非常に複雑化した時代だといえる」と述べ、以下のように説明している。
探す頻繁の高い情報を要約して一目で読めるよう、人気の高いアプリを腕時計向けに最適化した。腕時計の表面をスワイプするだけで、こうした情報を確認することができる。天気予報やスケジュール表、地図上での現在位置などが、ひと目で分かるのだ。素早くスワイプして別の情報を閲覧したり、そのうちの1つをタップして関連アプリを直接開き、より詳細な情報を確認することも可能だ。
しかしここで、「なぜ身に着ける必要があるのか」という疑問に戻る。われわれは本能的に、その単純な答えを分かっているのではないだろうか。
多くの人々が、ポケットや財布に押し込まれた携帯電話機を、わざわざ取り出していじることにうんざりしているのではないだろうか。Santos-Dumont氏が両手を自由に使える利便性を得た腕時計と、懐中時計との関係は、Apple Watchと携帯電話機との関係と全く同じだといえる。
Appleのエンジニアは、「超簡単」、「超シンプル」という表現を乱用する傾向にある。だがこのような表現は、両手を使わずにインスタントメッセージを送ったり、食料品を購入したり、地下鉄の回転式改札口を通り抜けたりすることができるようサポート可能な機器に対しても、適用できるのではないだろうか。
古臭い人間だと思われるだろうが、もし筆者がスマートウオッチを手に入れたなら、主に時間を確認するだけという間抜けな使い方をすることになると思う。ただ、こうした使い方も、「超シンプル」の定義に入るのではないだろうか。
筆者は、Appleが言う「ひと目で分かる」という行為を気に入るかどうか、分からない。実際のところ、筆者は執筆でも料理でも、絵を描く時でも、何かの作業を中断されるというのが嫌いだ。筆者には、“スマートフォン・フリー(スマートフォンを使わない)”の時間が必要なのである。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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