篠原氏が研究を進める宇宙太陽発電所(SPS:Solar Power Satellite/Station)は、地上から3万6000km上空の宇宙空間に太陽電池を設置し、マイクロ波を使って無線で地上に送電するという発電所の構想である。上空3万6000kmというのは、地軸の傾きによって地球の影に入ってしまう場所ではないため、ここで太陽光発電を行うことで、昼夜天候に関係なく大規模な電力を生成できることになる。
二酸化炭素は建設時のときしか排出せず、20g/kWh(SPSで発電した電力を利用して建設すれば、11g/kWh)。CO2排出量は、石油火力発電の846g/kWh、原子力発電の22g/kWhに比べても少ない。また、エネルギー源が太陽なので枯渇する可能性もほぼない。
また、SPSを毎年新たに構築し、初号機打ち上げから30年間にわたる経済波及効果および雇用者数を算出した場合、産業波及効果は183兆円、雇用者数は延べ人数で793万人に及ぶという。「SPSが実現した場合、経済効果にも大きな効果を生む」と篠原氏は語る。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2003年に試算したデータによると、1ギガワット(GW)のSPSを構築するには1.29兆円を要するという。その内訳は、宇宙での設備建設など(宇宙セグメント)に掛かる費用が8497億円、機材などの総輸送コストが2795億円、レクテナ*)建設コストが1637億円だ。
レクテナ:アンテナと整流回路を組み合わせたもの。マイクロ波のエネルギーを直流電流に整流変換する。
宇宙セグメントの中では、マイクロ波送電コスト部分が大きな割合を占め、6713億円。太陽光-直流変換部のコストが1581億円、構造体のコストが203億円となっている。しかし、総輸送コストやマイクロ波送電部分のコストに関しては、「この金額ではおさまらないだろう」(篠原氏)。SPSは、1つ構築するだけでも膨大なコストが掛かるので、メリットばかりではない。
さらに、マイクロ波によって地上に送電するという過程の中で、マイクロ波の制御が難しいなど、技術的にも課題は大きい。
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